約 301,187 件
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/472.html
『Fate/EXTRA 白い魔導師 第三話:First contact』 ――夢を見た。 周りは全ては焼け野原。 空も、家も、人も。 全てが等しく燃えていた。 これは原初の景色。あたしはここで―――。 「起きて。マスター、そろそろ起きて」 「んん……」 ゆさゆさと体を揺すられて目をぼんやり開けると、 白いスカートとジャケット、ツインテールにした栗色の髪をした女の人。名前は確か……。 「ええと、アーチャー、さんだっけ?」 「それ、昨日と同じ流れだよね?」 傍らに正座していたアーチャーのツッコミをスルーして体を起こした。 壁にかかった時計を見ると、時刻は七時半ちょうど。 「まだ七時半じゃん。起きるには早いって……」 「もう七時半だよ。これでも、昨日は遅かったから寝坊させた方だよ」 「寝る」 そう言い残して再び横になるあたし。せめてあと一時間は寝ていたい……。 「だから起きなって、ほら、今日は対戦相手が発表される日だよ」 カーテンを開けられて日光が顔にかかり、渋々と寝床にしていた体育マットから起き上がる。 大きく伸びをして体をほぐし、窓ガラスを鏡代わりに簡単に身支度を整える。 ふと窓の外を見ると、数列の並んだ空は相変わらずだったけど、ちゃんと朝日が差していた。 電脳世界のはずなのにリアルだな~、と感心しながらマイルームを出た。 ――――今朝見た夢の事は、忘れていた。 食堂で朝食を摂っていると、携帯端末にメールが届いた。 内容は、一回戦の組み合わせを二階の掲示板に表示するとのことだった。 「いよいよだね」 霊体化して姿は見えないけど、後ろに控えていたアーチャーが神妙な声で呟いた。 「心の準備は出来た? マスター」 「準備って言われても……」 我ながら情けないと思っても、曖昧にしか答えれない。 なにせ遠坂さんに指摘された通り、未だに聖杯戦争に参加しているという実感が湧かない。 それこそ本当は授業中に夢を見ていて、今にも藤村先生の怒りの咆哮が聞こえてくるんじゃないか。 「時間は待ってはくれないよ。対戦相手が決まったなら、今日からアリーナに入ってもらうよ」 アリーナ、というのはマスターとサーヴァントの為に用意された鍛練の場らしい。 この聖杯戦争にはいくつかルールがあって、その一つに6日後までに対戦相手と戦う為には、 トリガーと呼ばれる鍵を手に入れるというものがある。 そのトリガーが落ちているのもアリーナの中の為、6日間の間に鍛練しつつ手に入れないといけないそうだ。 「トリガーを手に入れないと、相手マスター達と戦うことなく敗北になるからね」 「敗北か……」 この聖杯戦争の敗北者に待つ運命は死あるのみ、らしい。 そう言われても、やはり実感は湧かない。気が付いたら、これから君達に殺し合ってもらいますとか何処の漫画だか。 あの神父はそういうイベントが好きそうだけど。とりあえず、食べ終わったら見に行きますか。 掲示板の前に行くと、案の定と言うべきか人だかりが出来ていた。 見たところ、表示されている名前はあたしの対戦相手だけだけど、他の人には別の名前が見えてるみたい。 公平を規す為に、他の組み合わせは見せないってことか。 で、あたしの対戦相手はというと……。 マスター:間桐 慎二 決戦場:一の月想海 「へえ。君が一回戦の相手とはね。本戦に出てるだけでも驚きなんだけどねぇ」 軽薄そうな声に振り向くと、いつもの様に人を小馬鹿にした顔をした慎二がいた。 「まあ、役割だったとはいえ親友だったわけだし? 一応、おめでとうと言っておくよ」 「あ、ありがとう……」 全く祝福していない笑顔だけど、反射的に礼を言ってしまった。 そんなあたしの弱気な態度を感じてか、慎二はニヤニヤと笑みを強くした。 「そういえば、君、予選をギリギリで通過したんだって? 凡俗は色々ハンデをつけってもらっていいねぇ。 でも本戦からは実力勝負だから勘違いしたままは良くないぜ? しかしこのゲームの主催者もなかなか見所があるねえ。 まさか一回戦の相手はかつての親友。嗚呼、主人公の宿命とはいえなんて悲劇だ!」 そう言いながら自慢のワカメ……もといウェーブヘアーをかき上げる慎二。 うん、いつもながらいっそ感心したくなる様なウザさだ。 「ま、君も予選に勝ち残れんたんだし? 案外いい勝負になるかもしれないな。 じゃあな、鳴海。ボク達の友情に恥じない勝負をしようじゃないか!」 最後に、片目でウィンクして言い放つとサッサと階段を降りて行ってしまった。 恐らくアリーナへ向かったのだろう。まあ、なんというか……。 「清々しいまでにいつも通りの慎二だね」 「いつもあんな感じだったの? と言うか、よくあそこまで言われて我慢できたね」 隣からアーチャーのどこか呆れた声が聞こえたけど、予選の学校生活の時から慎二はああいう自尊心に満ちた態度だった。 よく自分の自慢話をしていたけど、ほとんど聞き流していたから別段気にはしてなかった。 今思えば、一方的に話しかける慎二と話を適当に聞き流しているあたしという組み合わせは、さぞかし奇妙な友人関係だったかもしれない。 しかし、そんな慎二とあたしはこれから殺し合わなければいけない。 言峰神父は敗者には退場してもらうと言った。それは恐らくただ失格になるだけでは済まないだろう。 何せ予選で人形に胸を貫かれた痛みは本物だ。もしアーチャーを呼べなければ、あたしはあのまま……。 ――周囲は火の海。崩れ落ちる建物。 そして瓦礫の下敷きになり、 ■■■の意識は徐々に薄れて―― 「マスター? どうしたの?」 「……え?」 ふと、白昼夢を見た気がした。記憶にない、しかし現実感のある夢だった。 「どうしても気分が優れないなら、今日はやめておく? まだ一日目だし……」 「ううん、大丈夫。ちょっと呆けてただけ。ホラ、あたしたちもアリーナに行こ」 気づけば掲示板の前の人だかりは無くなっていた。みんな各々の場所に散って行ったのだろう。 唯でさえ、記憶がないというハンデをあたしを負っているんだ。時間を無駄には出来ない。 アリーナの入り口は、予選でレオを追って入った一階の壁にあった。 予選では唯の壁だったその場所は、今は観音開きの扉が付けられていた。 「――行くよ」 隣のアーチャーと自分に言い聞かせて、今、ゆっくりと扉を開き―― 瞬間、景色が一変した。 「わあ……」 目の前に広がった光景に思わず声が出た。 周りの景色は完全に海の中。あちこちに沈没船が漂い、それらを透明な通路で繋いでいた。 まるで、サルガッソを水族館にしたみたい――。 「マスター、どうやら対戦相手は近くにいるようだよ」 アーチャーの声で呆けていた意識を戻した。ゆっくり見て回りたい気もするけど、 今は探索の方を優先させないと。 「どうする? 一回仕掛けてみる?」 「仕掛けるって……猶予期間中だけどいいの?」 「うん、アリーナ内でなら猶予期間中でも3分間の接触が許されるの。 でも注意して。負ければそこで退場と見なされるからね」 慎二はああ見えても、予選を勝ち抜いた魔術師だ。魔術師としての実力は記憶のないあたしより上だろう。 しかしトコトン不利な状況にあるあたしには、今は少しでも対戦相手の情報が欲しい。 「アーチャー、慎二がいま何処にいるか分かる?」 「任せて。レイジングハート」 『All light』 アーチャーが何かを命じると、レイジングハートが光り、何かの立体を空中に映し出した。 これは……もしかしてアリーナの地図? 「彼等がいる場所は……ここだね」 その予想は当たっていた様で、慎二を示すマーカーが立体地図の一点を指していた。 「ここからすぐ近くの広場にいる。それも動いてないということは、向こうは待ち伏せしてるね」 「向こうは準備万端ってことか。行こう、慎二のサーヴァントがどんな相手か、ってことぐらいは見てみないと」 「了解。ついて来て」 先行するアーチャーの後を追い、あたし達は慎二が待つアリーナの一角へと向かって行った。 目的の場所は二分と経たない内に着いた。慎二達が待ち伏せしていた広場は、丁度アリーナの奥へと続く一本道の前にあり、 奥へと進もうとするなら必ずこの広場を通らないとならない場所にあった。 広場に来たあたし達を慎二は何をするというわけでもなくニヤニヤと嗤い、隣にいた女性は品定めをする様な目であたし達を見ていた。 女性は真っ赤なフロックコートを身に纏い、赤毛の長髪が風に靡いていた。 一見すると軍人の様な格好だけど、大きく開いた胸元と額から頬に架かった大きな刀傷のお陰で軍人という硬質なイメージは無い。 むしろ、暗黒街の侠客がしっくりくるかもしれない。こう、姐さんと呼びたくなるような。 「へえ、あれほど忠告して上げたのに律儀にやられに来たんだ。 それともボクの邪魔をしてトリガーを入手できない様にすれば勝てると思ったかい? でも残念、鈍くさい鳴海と違ってもう取得しちゃったんだよねぇ」 開口一番、慎二がそう自慢する手には光るカードが握られていた。恐らくあれが決闘場のキーとなるトリガーだろう。 しかし慎二達がアリーナに入ってからそう時間も経っていない筈なのに、もうトリガーを取っていたのは驚いた。 「そんな真似しないよ。慎二のサーヴァントがどんなものか見に来ただけだよ」 「ハッ、なんだボクの引き当てた最高のサーヴァントを見に来たってわけか。 そうだよねえ、どうせ負けるにしてもどれ程の差があるか見ておきたいだろうからね。 ライダー、挨拶してやりな」 正直に答えると、如何にも芝居がかった仕草でひとしきり笑い、慎二は自分のサーヴァントを指差した。 呼ばれた女性――ライダーは一歩前に進み出ると、優雅に一礼した。 「初めまして、嬢ちゃん。アンタがシンジの親友かい? アタシは……まあ、ライダーと名乗っておこうか」 豪放そうな雰囲気から予想できない、それでいて様になっていた一礼を見せられ、あたしも慌てて頭を下げた。 「は、初めまして、鳴海 月です。こっちはあたしのパートナーのアーチャーです」 「……ええと、マスター? 何も律儀にクラス名を名乗る必要は無かったからね?」 隣でアーチャーが驚き半分呆れ半分にツッコまれて、ハッと顔を上げる。ひょっとして今凄いポカをしたんじゃないでしょうか!? ああ、ホラ慎二も目が点になってるし、ライダーはなんか爆笑してるし! 「アッハッハッハッハッ、まさか馬鹿正直に挨拶してくるとはね! こいつはご丁寧にどーも! いやはや、ウチのマスターの親友と聞いたもんだから、どんな奴か楽しみにしてたけど予想以上に面白い奴さね!」 尚もケラケラと笑うライダー。なんかもう、穴があったら入りたい……。 「あのさ、鳴海。君って、ひょっとして凄い馬鹿?」 「うがっ!? し、慎二に言われるなんて……」 「はあ!? どういう意味だよソレ! ボクが鳴海より馬鹿なわけないだろ!」 「え~? でもこの前、クラスの子に教えてた問題、思いっきり間違えてたじゃん。挙句の果てに逆ギレして」 「バ、あれはちょっとしたケアレスミスで……馬鹿って言う方が馬鹿なんだからな!!」 「さっきからバカバカ言ってるのは慎二の方でしょ!」 ピーチクパーチクギャーギャーと言い合っていると、隣から大きな咳払いが聞こえた。 「二人供、そろそろ本題に入ろうか?」 アーチャーは呆れ果て、ライダーさんはニヤニヤした顔であたし達を見ていた。 うぐぅ、さっきからずっと見られていたと思うと恥ずかしくなってきた……。 それは慎二も同じ様で、舌打ちを一つすると仕切り直す様に喋り出した。 「ふん、何にせよお前はここでお終いさ。どうせトリガーを手に入れられないなら、 ここでゲームオーバーになっても同じ事だろ。ライダー、遠慮なく蜂の巣にしてやれよ!」 「はいはい、話し合いで平和的に解決もありだと思ったけどねえ。こっちの方がアタシらしいか」 そう言って、ライダーが両手に武器を構えた。あれは……フリントロック式の拳銃? 「来るよ。マスター、後ろに下がって」 「は、そちらさんも準備はOKかい。なら……派手に景気良く撃ち合おうじゃないか!!」 瞬間、周りの景色が赤く染まると同時にサイレンの様な音が鳴り響き、辺りに文字が浮き上がった。 その文字はこう書かれていた。 『Warning!! セラフより警告! アリーナでの私闘は禁止されています!』 「くそ、もう気付きやがったか!」 慎二が毒づいている所を見ると、これはアリーナからの警告なのだろう。 でもすぐに戦闘を中断されるわけでは無いらしい。 確か3分。3分だけなら戦闘できる――! 「行って、アーチャー!」 あたしの叫びと共に、アーチャーがライダーへ疾走する。 いや、これは疾走じゃない。よく見ると、地面スレスレを浮かんで飛んでいる。 『Accel shooter』 レイジングハートの機械的な声と共に、光弾が五つ、ライダーへと奔る。 まともに受ければ、あの人形の様にただでは済まないはずだ。 「そらよ、と!」 しかし、光弾がライダーの身体を貫くことは無かった。 ライダーが続けざまに素早く撃った弾丸が光弾を打ち消したからだ。 アーチャーは気にした様子もなく、ライダーに向かった速度のまま、レイジングハートで殴りかかった。 甲高い音がレイジングハートから鳴り響いた。 いや、正確にはレイジングハートとライダーの拳銃がぶつかり合った音だ。 ライダーはアーチャーが打ち合ってくるのを見るやいなや、両手の拳銃を交差させて受け止めていた。 「っ、弓兵を名乗る割には重い一撃じゃないかい」 「それはどうも。近接戦闘も必須科目だったからね」 杖と銃の鍔迫り合いの中、ライダーは肉食獣を彷彿させる笑みを浮かべ、アーチャーは冷徹に言葉を交わした。 「はん、妙なナリのくせに元軍人かい? どうりでお堅い雰囲気がするワケ、だ!」 気勢と共に、ライダーの蹴りがアーチャーの鳩尾に叩き込まれ、アーチャーは後退する。 しかしアーチャーは悶絶する様子もなく、後ろに飛びながら弾幕をライダーに浴びせた。 撃ち出された光弾の数は十発。散弾銃さながらの勢いで迫る光弾は、ライダーを足止めするには十分なはずだった。 ―――そう、はずだったのだ。 ライダーが全ての弾丸をすり抜けて突っ込んで来なければ。 「なっ!?」 予想外の行動にアーチャーが驚愕した。その隙をライダーは見逃さず、一気に距離を詰めて行った。 「そら、倍返しさ!」 乾いた発砲音が二発、同時に響く。至近距離で放たれた弾丸がアーチャーの胸で破裂した。 「アーチャーッ!!」 「くぅ、っ」 思わず声を上げてしまう。苦悶の声を上げながら、アーチャーはレイジングハートを横薙ぎに振る。 それをライダーはバックステップで避け、また両者の距離が開く。 「アーチャー、大丈夫!?」 心配そうなあたしに対して、アーチャーは振り向きざまに笑ってみせた。 「心配無いよ。この程度ならバリアジャケットで防げるから」 見ると、先ほど撃たれた箇所は血が流れてない処か、傷も見当たらない。 アーチャーの服は、ああ見えて防弾チョッキになっているのだろうか? 「やれやれ、雰囲気以上に相当防御が固いときた。今の一発が効かないのはショックだねえ」 「そうでもないよ。流石に至近距離で撃たれたら、弾は防げても衝撃そのものは響くからね」 「はん、ちゃっかり反撃してきて何言ってんだか。ま、シンジが言うよりは楽しめそうだけどね」 お互いを認め合う様に、アーチャー達は笑い合った。まるでスポーツを楽しんでいるかの様な雰囲気に、 これが命のやり取りだという事を忘れそうになる。事実、さっきまでの動きだって辛うじて目で追えたくらいだ。 あたしがあの二人の間に立ったら成すすべ無く死ぬだろう。巻き込まれただけで人が死ぬ様なものを、 断じてスポーツ(運動)と呼んではいけない。 (これが、英霊の戦い……) アーチャーもライダーも、名前は分からないけど有名な英雄だったのだろう。 二人は、きっと戦場を駆けて、常人では出来ない数々の栄光や名声を手にしてきたに違いない。 そんな光景が目に浮かんでくるぐらい、二人の動きは現実離れしていて―――何よりもそれが自然体であるかの様に見せている。 そんな二人が、きっと生前会うことすら無かった二人が今、あたしの目の前で戦っている。 その事実に―――実際に行われているのは命のやり取りだと分かっていてのに―――説明できない昂揚感を感じてまう。 「おい、ライダー! 鳴海のサーヴァント相手になにモタモタやってるんだよ!!」 でも慎二には、目の前の出来事に対してそんな感情は無いらしい。 むしろ思い通りにいかなくてイライラしているかの様に声を張り上げた。 「お前はこの僕のサーヴァントなんだぞ! そんな奴、さっさと片付けろよ!!」 「やれやれ……男だったら、もうちょっとどっしりと構えて欲しいものだねえ」 まるで遊びで不愉快な事があった子供の様な慎二に対して、ライダーは苦笑してかぶりを振った。 「でもまあ……派手にぶちかましたいのは同感だ」 ライダーがそう言った瞬間―――雰囲気が一変した。 ライダーの表情は相変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。 それなのに、その笑みはまるで肉食獣が牙を剥いてる様に見えた。 傍から見てるあたしでも分かる。今までライダーは本気じゃなかったんだと。 と、ライダーはおもむろに右手を挙げた。すると――― 「……え?」 ライダーの背後の空間が水面の様に揺らぎ、何かが出てきた。 唐突に起きた不思議な現象に声を上げてしまったが、あれは――― 「大砲……?」 そんなあたしの呟きが聞こえたのか、ライダーは一層笑みを深めて、 「砲撃用意……」 アーチャーに向けて、手を振り下し――― 「藻屑と消えなっ!!」 轟音と共に、砲弾が発射された。 いや、発射されたのだろう。 というのも、あたしの目には砲口が光ったと同時に、 アーチャーがいた場所が発破をかけられたかの様に地面が吹き飛ばされた様にしか見えなかったからだ。 どう見たって直撃だ。普通の人間なら跡形もなく吹き飛んでいるだろう。 「……ホントに固いもんだ。食い甲斐のあるロブスターって処かね」 ライダーが呆れた様に呟いた。 爆煙が晴れると、アーチャーは桜色のシールドを出していた。 人形の一撃すら防いだシールドは、今回もアーチャーを砲撃から守ったのだろう。 「……ッ」 でもアーチャーは全くの無傷では済まなかったみたいだ。 その証拠にシールドに罅が入り、ガードした筈のアーチャーの顔が苦痛に歪んでいた。 「何やってんだ、真剣にやれよお前!!」 「慌てんな慎二、押して駄目なら……」 そう言ってライダーはさっきの様に背後の空間を歪ませ―― 「もっと押してみろ、ってな!!」 直後、無数の砲身が出てきた! 「っ、レイジングハート!」 『Accel Fin』 アーチャーの両足に桜色の羽が出て、視界から消えたと思ったと同時に、 さっきまでアーチャーがいた場所が轟音と共に爆煙に包まれた。 見れば、アーチャーは足に生えた羽を使って宙に浮かんでいた。 大砲を確認したと同時に、空中へと回避したのだろう。 「ハン、本気で面白い奴だね! ホラホラ、どんどんいくよっ!!」 ライダーの宣言に呼応する様に、砲弾の数が増していく。 その度に落雷の様な衝撃と轟音がこちらにも伝わってくる。 アーチャーはさっきの高速移動を使って砲撃をかわしているものの、 数が多すぎてライダーに近寄れないでいた。 甘かった――あたしは今更ながら思い知らされた。 さっきまで様なスポーツ然とした戦いで、お互いの勝敗を決めるものだと、そう思っていた。 だがあんなもの、サーヴァントからすればじゃれ合い程度のものだろう。 絶え間ない砲撃は火力が、速度が、なによりも相手を殲滅するという気迫が違うと雄弁に物語っていた。 聖杯戦争――それは、英霊達が一騎打ちするという意味では無い。英霊達が全力をもって戦争することなのだと、 嫌でも理解させられた。 マスターの特性なのか、アーチャーの様子は手に取る様に分かる。 今のアーチャーは回避する事で精一杯だ。それも体力と魔力を削りながら、どうにか回避している。 このままでは、砲撃が命中するのも時間の問題だ。一発でさえ、防ぐのに手一杯だった砲撃が今度は無数に襲いかかる。 そうなれば――今度こそ、アーチャーは跡形なく吹き飛ばされるだろう。 そして、その恐れた事態が起きた。 「くあ、っ……!」 「アーチャーッ!?」 それは正に一瞬の出来事だった。さっきまで戦闘機のドッグファイトさながらの動きで回避していたアーチャーが、 電流に触れたかの様に体を痙攣させた。それで動きが止まったのは一瞬、だがその一瞬はこの状況で致命的だった。 そして―――! 「これで、終いだっ!!」 無数の砲撃が、アーチャーを容赦なく撃ち抜いた―――。 「アーチャー……そんな………」 目の前の出来事に、あたしは馬鹿みたいに呟くことしか出来なかった。 「驚いたかい? このゲーム、僕たちマスターもバトルの参加者なのさ」 気障たらしい慎二の声に目を向けると、慎二の手元にコンピューターのキーボードみたいなホログラムが浮かんでいた。 恐らく、さっきアーチャーが止まったのは慎二が何かしたからだろう。 「ま、気を落とす事は無いさ。僕が相手じゃ鳴海が勝てないのは無理ないって」 慎二が何か言っているが、あたしの耳には入ってこなかった。あたしは茫然とアーチャーがいた場所を見ていた。 アーチャーがいた場所は依然として、硝煙で見えない。それがこの砲撃の凄まじさを物語っていた。 あんな物が直撃したんだ。アーチャーは、もう………。 「地上に帰ったら自慢してもいいぜ。アジアのゲームチャンプの僕と戦ったと言えば少しはステータスに――」 「いや、シンジ。まだ勝ち名乗りを上げるには早い様だよ」 慎二の弁舌を遮ったライダーは、硝煙に覆われた場所を指差した。そこには―― 「アーチャーッ!」 アーチャーがいた。バリアジャケットは至る所から血が滲み、レイジングハートも大破しそうな程、 亀裂だらけだったが、どうにか両足で立っていた。 「咄嗟にシールドでガードしたか。そのお陰で即死とはならなかった、というわけだ」 「くそ、馬鹿みたいに耐久が高いサーヴァントだな」 ライダーの解説に苛立った声を上げる慎二。 良かった……生きていたんだ。思わず安堵の溜息が出る。しかし―― 「っ、あ………」 よろよろと、体を揺らしながらアーチャーはレイジングハートを構える。 まるでそうしなければ、次はあたしが殺されると言うかの様に。 どうする? どうにか立ったけど、戦える状態じゃないのは明らかだ。 ここを切りぬけるには一体、一体どうすればいい!? ――その時だった。 『Warning!! セラフより警告。 アリーナでの私闘は禁止されています。 直ちに両マスターは戦闘を中断して下さい。 指示に従わない場合は、セラフよりペナルティが与えられます。 繰り返します。直ちに両マスターは戦闘を中断して下さい――』 アナウンスと共に、目の前に警告表示を示したメッセージウィンドウが浮かんだ。 「チッ、あとちょっとだったのにもうタイムオーバーかよ」 慎二が忌々しく呟いたのを聞いて思い出した。 そうか――もう3分経過したのか。 「まあいいさ、鳴海程度ならいつでも倒せるからね。 じゃあな、精々決闘日までにレベルを上げておきな。 そうすれば、いい勝負ぐらいにがなるかもな」 そう言って、慎二は高笑いしながら、ライダーとアリーナの奥へ去って行った。 あたしはその背中を黙って見送るしか出来なかった。 悔しいけど、いま慎二を追い掛けても返り討ちにあうだけだ。それに今は先にやる事がある。 「アーチャー、大丈夫!?」 「にゃははは……ここまで……ボロボロにされたのは………結構久し振りかも」 あたしが駆け寄ると、アーチャーは力なく笑った。 間近で見ると改めて受けた傷の深さが分かる。常人なら絶命しても可笑しくないのに、 しっかりと両足で立って―――あたしを安心させる様に笑顔を見せた。 「………っ!」 思わず唇を咬む。あたしは何を甘えていたんだろう。 戦う実感が湧かない。それはそうだ、何せ記憶が無いのだから。 でも時間は待ってくれない。あたし以外のマスターはこっちの事情なんて知った事では無いだろう。 それでもアーチャーはあたしの為に戦う。今みたいに殺されかけても。 「、と……」 フラリと傾きかけたアーチャーの身体を慌てて支える。 思っていたよりずっと軽い身体に驚きながらも、肩を貸す様な体勢になる。 「今日はもう引き上げよう。帰って治療しないと」 「賛成だね……ごめんね、幸先悪い初日になって」 「そんなのいいよ、生きているのが奇跡みたいなものだし」 肩を貸しながら、二人三脚みたいに来た道を引き返していく。 幸い、アリーナの入り口はそう遠くない場所にある。 そこまで行くぐらいなら、どうにかなるだろう。 「アーチャー」 肩を貸しながら、あたしは声をかける。 この戦争を勝ち抜く理由なんて、まだハッキリとしてないし、 負けたら死ぬというのも、理解はしたけど納得が出来ない。 それでも――― 「次は勝つよ。絶対に」 それでもこのサーヴァントの期待に応えられるくらいのマスターになろう。 その為には、まず慎二に勝たないといけない。そうでなければ、 あたしはアーチャーが救ってくれた命をまた無残に落とすことになるだろう。 「……ふふ、何を学んでくれたか知らないけど……朝より良い顔になったね」 微笑むアーチャーと一緒に、あたし達はアリーナの入り口へと歩いて行った。
https://w.atwiki.jp/jojost/pages/138.html
[[パンナコッタ・フーゴの消失]] 第三話 〜キョン視点〜 むすーっ。 そんな擬音がこれ以上なく当てはまるハルヒの顔が、今日登校してきた俺が教室で初めて目にしたものだった。 きっと今頃古泉の仲間は閉鎖空間で青いのをぶった切ってるんだろうな。 俺は日々終わらない戦いを続けている超能力者達に同情しながら、一応ハルヒに聞いてみた。 「なんだ……調子悪そうだな」 俺をうるさいハエを見るような目つきでじろっと睨むと…… はあ〜。 盛大なため息がハルヒの形のいい唇から漏れた。 そしてとんでもないことを呟いた。 「私って……ほんとにダメな人間だわ」 そのセリフの効果は絶大だった。 ペンをくるくる回して窓の外をぼけーっと見ていた谷口はペンを取り落としてハルヒのほうに首を捻り、ノートをひろげていた国木田はびくっと肩を震わせて勢いあまってノートを破ってしまっていた。 そして俺はというと、声帯を奪われた鳥の剥製みたいに口をあけてぽかーんとハルヒの顔を凝視していた。 いや、ハルヒ。あのな、確かにお前はちょっと……というか結構直さなくちゃならないところがあるのは満場一致の事実であるが、 それを意識して欝になるっていうのはらしくないぜ。まだ爆笑している長門のほうが違和感ないぞ。 数秒後、時は動き出す——— 「……マジで具合悪いんなら保健室いきな。あ、なんか悩み事があるんなら相談くらい乗ってやるけど」 らしくないのが俺にも伝播して変に親切なセリフを吐いてしまう。 「別に、いい」 これがハルヒの返答である。長門の真似かよ。笑えねーって。 答えに窮する俺の顔を見ると、ハルヒは二度目のため息と共に事の真相を語りだした。 「……私ね、超能力者を見つけ出しておきながら逃げられちゃったのよ」 また答えるのに困るようなことを…… 「あーっと。本物の……?」 「本物に決まってんでしょバカキョン!!」 突然俺に噛み付いた。 ……うるさいハルヒを見て安心してしまい、少し自己嫌悪に陥る。 「へーやっと超能力者見つけたのかよ。」 谷口、そんな嘲笑と取られるような笑い方と話し方じゃまた噛み付かれるぞ。 しかしハルヒはさっきの威勢はどこへやら、またぐたーっとなってしまった。 そしてまたぶつぶつ話し出す。 「昨日ね、学校の帰りに誰かがチンピラ2人に絡まれてるのを見かけてね、助けてやろうと思ってそっちに行ったらその絡まれていたほうが相手をぶん殴ったのよ。面白そうだから見てたらもう一人のほうがナイフを出してきてね。 危ないっ! て思ったら……」 超能力者とやらに出会ったときの感動を思い出したのか、話してるそばから目をきらきらさせていく。心配する事もなかったか。 やっぱりこいつはこいつだ。 「突然!ナイフが空中で何かにぶつかったみたいに止まったのよ! それで絡まれてたほうが膝蹴りを繰り出して勝負ありってなったのよ」 後は言われなくても想像できる。お前はその絡まれてたやつに絡んでいったんだろ? 「話しかけただけよ! ……でもそいつ、私に『涼宮ハルヒさんですか?』って聞いて『そうだ』って答えたら逃げ出しちゃったのよ。 ……私も突然だったから直ぐに後を追ったんだけど……」 捕まえられなかった、と。 ふむ、なるほど。だがなハルヒ、ナイフを突き出そうとしたやつが怖くなって途中でやめただけかもしれないし、 なんでそれだけで超能力者認定が出るんだ?あまりに都合よく解釈しすぎじゃあないか。 そう、普段の俺ならこんな感じで適当に相槌を打って終わりにするのだが、今回はそうもいかなかった。 なんでって? そいつが涼宮ハルヒの名を知っていたからさ。 俺が口を開きかけたとき、丁度担任が入ってきた。 〜フーゴ視点〜 暗殺とか、なれない事はするもんじゃあない。 といったところで拒否権なんてないわけで、つまるところただの愚痴にしかならないのだが。 僕は最高に欝な気分で県立北高校の制服に身を包みながら、これから担任となる先生の後ろにくっ付いて廊下を歩いていた。 IQ152っていったってじゃあとっさの判断力がずば抜けてるかって言ったら別にそんなこともない。 どこが決定的な失敗だったか。 ……逃げたとこかな。まあどちらにせよ調べなくちゃいけないからあの時は殺せなかったが、もっと何かうまい切り抜け方があったよな。 ……というよりターゲットに名前を聞いたところかな? ……いや、パープルヘイズで防御したところか、なんてったって敵に自分のスタンド見せちゃったわけだし。 ……いやそもそもあのチンピラの足を引っ掛けなければ何も起こんなかったんだし。 ……いやいや、服に気をつかっていれば…… 思考の海に埋没しかけたところ、担任の声で我に返った。 「君にはこれから1年5組で共に学んでもらうから。よろしくな」 ……ちょっと待て。 「あの、確かご説明では、私は1年9組に編入されるというお話だったと思うのですが……」 「いや?1年5組で合ってるよ?」 「そ……そうですか」 んな馬鹿な。 いくら最近ミスが多いからって、入学関係の書類を読み間違えたりはしない。 先を行く教師に続きつつ、僕はいそいそとそのプリントを出してみる。 「聞いた話だけど、君はとても優秀らしいね、私としても期待……き、君どうしたんだい?」 「いや……ちょっと眩暈が。すいません。」 あ…ありのまま今起こった事を話そう。 『僕はプリントに1年9組と書かれていると思っていたら、いつの間にか1年5組になっていた』。 な…何を言っているのかわからないと思うが、僕も何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだ…読み間違えだとかすり替えだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わった… ……これが涼宮ハルヒの「能力」によるものだと、この時の僕は知る由もなかった。 〜視点・キョン〜 転校生。 心配と吐き気がむんむん沸いてくんじゃねーか。 俺は後ろの席を一瞥しする。 機嫌が直ってる……かとおもいきや逃がしたときの事を思い出したらしくハルヒはまたぐったりになっていた。 「何だ、喜ばないのか。」 「古泉君がいるじゃない。それに昨日の今日で超能力者に再会できるとは私も思わないわ。 ……まあ面白かったら入団考えてあげてもいいけど」 それを聞いて、俺は最近封印していた言葉を心の中でつぶやいた。 「やれやれだ」 今ドアの外で待機している転校生が普通の平々凡々のやつだと期待するほど、俺は楽観的で学習能力のない人間ではない。 事実はどうか分からないが、ハルヒが超能力者を見つけちまったと思い込んでいる直後だ。 おそらくはそいつも何か妙ちきりんなプロフィールを持ってるんだろう。そして古泉の時と決定的に異なる点。 3日前の部室でのハルヒの発言を俺は思い出す。 『私達に正体を気取られたくない後ろ暗いところがある連中ね。 そういう奴らはきっと私達のことを良く思ってなくて、あわよくば私を倒そうとするんじゃないかと思うんだけど……』 うん、こんな感じだった。 古泉の説明を元に解釈すれば、ハルヒはジェントルマンな宇宙人、超能力者を探すよりは自分に敵意を持った常識外の存在を探すほうが容易だ、と思っているんだろう。 ハルヒ的には当初の目標の中の「仲良く遊ぶ」という項目を諦めれば「宇宙人、超能力者を見つける」というより大きい目的に近づける、 ということなんだろう、うん。 ……一体どういう思考回路を通すとそんな答えが導きだされるのかは分からんが。 どっちも同じだろうに。 「早速だが自己紹介してもらおう。フーゴ君、入ってきてくれ」 「あ、そうだ。あんたも見つけるかもしれないから容姿を言っておくわね」 声を小さくして岡部と同時進行で俺にしゃべるハルヒ。なかなか信じられない事だが本当に転校生には興味ないらしい。 俺は一応、入ってきた転校生に視線を移す。 まず目に付くのは特徴的な金髪と柔和な微笑を浮かべた彫りの深い顔立ち。 外国人だった。 教壇の前に立って俺たちを見回すその瞳は深い知性をたたえていたが、どことなく冷徹で利己的で、高校生らしからぬ狡猾さが滲み出ていた。 ……なんて感想を抱いたが、そいつが悪意をもった闖入者かもしれないという先入観があったためにそんな風に見えただけかもしれない。現に女子なんかは含みを感じる視線で入ってきた転校生をうっとり見ている。 まあ、俺に話しかけている約一名は言うまでもなく例外に含まれるのだが。 「外国人っぽくて、右前髪を垂らしていて、身長は170半ばくらいだったかしら。金髪だったわ。……そう、あの転校生みたいな感じ、ってまんまあれじゃん!」 最後だけボリュームアップして、ついでに立ち上がり転校生に指を突きつける。 右前髪のところでもしかしたら、と思ったがやっぱりそうか。 別にもう俺は驚いたりしないさ。お前は知らず知らずのうちに自分の欲するものをブラックホールなみの引力で引き寄せるやつだからな。 だが気は抜けない。 長門がいる限りどんな敵もほとんど返り討ち確定みたいなもんだが、万が一ということもある。 そんな胃に穴があきそうな心配を余所に、転校生はハルヒにゆっくりと視線を走らせた。 クラスメートが絶句している。 これはハルヒの奇行に対してだけではないだろう。 というのも、ハルヒが指をさした瞬間、転校生の様子が変わったためだ。 古泉を髣髴とさせる柔和な微笑が今は長門ばりの無表情になり、獲物を観察する肉食獣のような剣呑な雰囲気に包まれている。 この一瞬だけでみんな第一印象を塗り替えたと断言できるな。「こいつはキれたらやばい」って。 そして、それに負けじとハルヒも相手を睨みつける。 2人の迫力は色々と危険な目にあってきた俺ですら、腰が砕けそうになるほど強烈だった。 空気がフリーズした数秒後、触ったら爆発しそうな沈黙は静かに破られた。 「パンナコッタ・フーゴです……どうぞよろしく」 そしてまた数秒後の空白の後、岡部がその場をとりなすべく転校生に自己紹介の続きを促したのだった。 To Be Continued・・・
https://w.atwiki.jp/liargame-umg/pages/174.html
学園生活 裏切編 -裏打ゲーム- 「友情なんてクソクラエ!」 ルール 1月26日21 00から30分の投票タイムを1回行う 自分の出席番号と勝たせたいクラスメイトの出席番号を記入し投票箱に投稿 例 「001番 002番を勝たせたい」 ただし自分への投票は不可能 投票は一度しかできない それぞれのクラスの中で先に投票されていた2名が勝利 もし投票が1人以下のクラスがあれば、そのクラス全員敗退 その場合臨時ゲームを行う あなたなら、友情をとるか。勝利をとるか。 詳細 ゲーム開催期間 1月26日21 00~ 参加者総数 9名 結果 クラス A組 009 010 013 C組 001 003 015 D組 004 006 014 C組の二人が001番リューク。に代理投票を任せ、001番は自身に投票せず結果敗退となった その後、人数合わせのため急遽敗者復活ゲームを開催、002番TOLLOW、016番アイ両名が決勝進出となった 最終結果 勝者 No 名前 002 TOLLOW 003 LastGame 004 じゅーたん 005 TKG 009 つるぎ 013 クロス 014 コア 015 SpeciakSky 016 アイ 計9名
https://w.atwiki.jp/mind_of_hunting/pages/47.html
https://w.atwiki.jp/vip_witches/pages/170.html
その後バルバロッサ作戦が始動、ある程度の戦果を上げる。 実はこの際素手で戦車ネウロイを一機体撃破しているが、それはまた別の話。 今回に関しても、自分はチマチマと戦果を上げ続けるだけなのでつまらない事この上なし。 だが次のハルファヤ峠、此処はきつかった。 ソコでの作戦は俺一人だけだった。 先行しハルファヤの超大型設置型遠距離狙撃砲台8基、別名ストーンヘンジを落としてこいとの事。 俺(エスコンじゃないですかー!やだー!しかも俺一人かよ!) ダウディング「さて、今回も面識が有るという理由で今回も君とブリーフィングだな」 俺「俺ウィッチと喋ったこと無いんですよね、どうしてでしょうね」 ダウディング「男だからじゃないのか?」 俺「……ああ……よし、じゃあ姿を変えてやろう」 そう言ってミスティレディの応用で光を屈折させ、周りから見えなくなった後BYDOの能力を利用し。 変身するのは……病弱系のヤツそうそれは…… 俺「スペランカー先◯!」(ソーレハマギレモナク、ヤツサー ダウディング「……頭痛くなってきたので今日は帰らせてもらう」 俺「マジサーセン」 ダウディング「まあキミの魔法(?)とか何かはまあ気にしないが、明日から作戦開始なのでしっかり準備するように」 俺「了解ではおやすみなさいませ」 ダウディング「ああ、お休み」 俺「コレはやめとくか……即死しそう」 結局その後元の姿に戻りその日は就寝。 結局その後空中を漂い漂いお国から数百里、何でも中東にあってかなり遠距離まで狙える超大型兵器らしく。 ぶっちゃけ、ウォーヘッドの位相次元潜行能力が無かったら、少し面倒だったかも知れない。 そんな事を考えつつ、既に北アフリカに到着。 俺「……で、デケェ……」 遠く1km離れても見える巨大な大砲。 そして、全機コチラを確認したようで、突然銃口をコチラに向け射出。 次の瞬間、巨大な質量とエネルギーを伴い、飛んでくるが伊達に未来兵器を使っては居ない。 第一宇宙速度で回避、然し巨大な質量による振動がコチラにまで伝わってくる。 恐らくアレはシールド弾でも防ぎ切れないことはおろか、カスってもマズイと判断。 コチラも先に準備していた拡散波動砲を1基にぶち込み、撃破、残り七基。 俺「クソッ、なんて兵器だよ……」 恐らく一基一基がネウロイであり、尚且つお互いに情報を共有し戦闘する兵器と判断。 レールガンで一基を狙うがチャージ完了した他のネウロイが、コチラに狙って放った砲撃により回避行動をとり。 一基の破壊に失敗、恐らく一発一発波動砲でやるほうが確実だと思われる。 だが一発一発が別の砲のクールタイムを補い、カバーしあっている先に一基潰していなかったら不味かったかも知れない。 俺「ザイオング重力制御システムが無かったら死んでたな俺……」 チャージ完了まで後20秒。 19、18、17、16、15……次の瞬間他の一基の放った特殊榴弾が炸裂、だが何とかギリギリ位相次元に離脱。 8、7、6、5、4、3、2、1、ネウロイは敵を見失い、慌てているのかアチラコチラを見回している。 ソコに現れまた波動砲を放ち、2基目のネウロイを撃破。 俺「2基目撃破!チョロイもんだぜ、その綺麗な砲台を吹き飛ばしてやる!」 現れた時の流れでまた一基をレールガンで撃破、一度離脱し放ってきた榴弾を回避しまた一基、また一基と撃墜。 そして最後の一基に照準を合わせ、レールガンで穴だらけにした後、さらさらとネウロイは欠片化。 ストーンヘンジを撃墜確認、後は撤退するだけだが…… 俺「……ん?」 遠くからネウロイのを確認、だが既に撃破されたのを知ると撤退していったようだ。 俺(……ネウロイも視覚的情報を利用するのか) その後前線基地に退却、今日のを今までの戦果と合わせて撃墜数は601となった。 その戦果を評され、新しい通称を頂きました。 俺「……流石に空飛ぶ筋肉戦艦YAROUはどうかと思うわ」 その後も淡々と撃墜数を重ね1943年末。 ブリタニアの第442連隊駐留基地(43年、一度第100大連隊を解体し名前変更) 8492、ネウロイの悪夢、筋肉飛行隊、衛星攻撃兵器その後も色々な名前をつけられたが。 まあ空飛ぶ黒ブーメランパンツ筋肉兄貴オッスオッスよりはマシか…… 結局今年も一人身だったなぁ(部隊人数的な意味で)なんて事を考えていると。 次の瞬間ドアをこんこんと叩く音がする、取り敢えずどうぞと言って人を中に引き入れる。 ミーナ「失礼しmブッ……」 勿論最近は男しか来ないので、基本的には黒ブーメランオンリーで生活していたスキンヘッドマッチョ。 其れが元帥の席の上で胡座をかいて、ココアを飲んでいる。 勿論そんなものを見たミーナは勿論というべくか、かなり困惑した表情を見せる。 俺「……あー女性さんか、少し外でてもらってて良い?」 ミーナ「え、あ、はぁ……」 バタン、という音と共に取り敢えず、姿を変えることにする。 基本的に、女性には女性の姿で取り合うことにしている。 理由は187cmのムキムキマッチョマンで話しかけるとかなりの確率でビビられるからだ。 取り敢えず、黒髪ロングの黒目に黒地のスーツ、薄い白肌でか細い印象、身長は156cm程で体重は42kgに設定。 大幅な変化はゼリーのようにドロドロになった後、変化するため見ればSAN値がガリガリ削れる事間違い無し。 前にスペランカー先生の時の偏光霧はどうしたって?一々そんなん出してられっか! 俺「はいどうぞ」 ミーナ「は……えっ?」 いきなり現れた別人に驚いたのか、再び戸惑いの表情になるミーナ。 ミーナ「……あの、今の男の人はどちらに?」 俺「私だ」 ミーナ「は?」 俺「まぁ、何でもいい造形等は、まあどうでも良いことだと思わないかな?」 ミーナ「はぁ……」 俺「それで何用かね?」 ミーナ「いえ、ですが『俺元帥』は男性の方だと聞いていますが」 俺「分かりやすく言おう、『俺元帥』に性別は……まあ無いと思ってくれて良い」 ミーナ「判りかねます」 俺「まあうん、さっきのムキムキマッチョマンも今此処にいる私も全て『俺元帥』である」 ミーナ「固有魔法……ですか」 俺「まあそれでいい、詳しく言うと魔法だとか、手品だとかそんなチンケな物ではないが……まあ本当にどうでもいい」 まあ説明しても意味分かんないだろうしね。 ミーナ「はぁ……では要件を言います、コチラに居る442連隊を世界中のウィッチと合わせ」 ミーナ「此処に連合軍第501統合戦闘航空団通称「STRIKE WITCHES」を編成する趣旨をお伝えしに来ました」 俺「……はぁ、まーた連合の命令か……メンドイなー」 ミーナ「そう言われましても……所で442連隊についてですが、他のメンバーは何処に?」 俺「連隊もクソもないが……まあ、私一人だよ、ワンマンアーミーってヤツだ」 ミーナ「……はっ?いえ、ですが、連隊合計ネウロイ総撃墜数は800を超えており……」 俺「まあそれもそうか、小型機が多かったしね、決して倒せない敵ではなかった」 俺(ってか、私一人しか居ないって伝えなかったのかよ) そう言って、机の上の少しぬるめの、丁度いいココアを飲む。 やっぱり砂糖は4杯程が良いのか、と思いつつミーナをまだ名前聞いてないなー、とその時は思いつつ見つめる。 俺「所でキミ、名前は?」 ミーナ「ミーナ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」 俺「んで、他のメンバーは?」 ミーナ「今それぞれ、コチラに向かっているそうです」 俺「へぇー」 ミーナ「資料を参考にした上で付かぬ事をお聞きになりますが……おいくつ何ですか?」 俺「……まあ少なくとも1500年代から生きてるしね……まあ500歳は超えてるんじゃないかなァ!?」 ミーナ「(何でこの人語尾を強めたんだろう……)……嘘ですよね、渡された資料にも年齢不詳とはありますが?」 俺「……まあ少なくとも、こんなボロボロの生年月日確認書も役に立つもんだ」 そう言って胸ポケットから出された天正14年、皇紀2246年、西暦1586年の南洋島、太閤検地の際の写真である。 侍のような人と一緒に映る、筋肉ムキムキマッチョマンのブーメラン男。 作っててよかった、デジカメとプリンターセット。 ミーナ「……」 俺「……そんなジト目で見ないでくれよ、コレでも善良な市民なんだぜ私は」 ミーナ(胡散臭っ) 俺「さて暫く空き家だらけだったこの基地だが、何人来るのかね?」 ミーナ「私と合わせて9人だと聞いてますが……」 俺「10人位か、何だか多いんだか少ないんだか分かんなくなるな、何分今まで一人だったしね」 ミーナ「少ないですよ、少数精鋭なんですから」 俺「そうか、少ないのか、多いほうだと思ったんだが……」 そんな事を考えつつココアを一口、うん、旨い。 ミーナ「所で……その、通称なんだけど」 俺「通称がどうした?」 ミーナ「空飛ぶ黒ブーメランパンツ筋肉兄貴オッスオッスは変えたほうがいいと思われますが…」 俺「開戦時から其れなんだよね、いい加減私も変えたいわ」 ミーナ「そうね……うーん、ティンダロスの猟犬ってどうかしら?」 俺「それ私腐臭しまくりじゃん、嫌がらせ?」 ミーナ「そう……うーん、ゲロシャブ……」 俺(自分で考えたほうが安全なような……) ミーナ「空飛ぶダンディマッチョ!」 俺「なあ、筋肉から離れないか?」 ミーナ「そうね……じゃあ……マキシマムマッチョ」 俺「離れるどころか近づいてるじゃねぇか!」 ミーナ「イイじゃない、マッチョ、ふふ」 可愛いからふふっ、って言えば良いってもんじゃないぞ…… まあ空気は大分解れたし、まあよし。 俺「よし、決めたミラクルおr……やっぱやめた」 ミーナ「?」 俺「いや、その名前は早死しそうだし、辞めよう」 ミーナ「はぁ……不定形侵食生命体俺兼元帥なんてどうでしょう」 俺「それってそのまんま私を名指ししてるようなもんだよね、てかクトゥルフからも離れない?」 ミーナ「あら失礼」 俺「こやつめハハハ」 ミーナ「うふふふ」 俺「扶桑の最終防衛システムでいいや」 ミーナ「それでいいんですか?」 俺「其れの方が戦後元鞘に戻りやすそうだし」 ミーナ「まあそれでイイんなら、良いと思いますが」 さてどうしたものか、後で一人一人面接して所属特徴などを掴みたいが…… まあ、兎に角だだっ広い基地の中で一人ぼっちは避けれそうだ。 俺「後で来た順に私の部屋に通して面談した後、適当に部屋に分けていってくれ」 ミーナ「今更面談なんて必要ですか?」 俺「適当に喋っとかないと、後々いざ話したら…ってのもアレだしな」 ミーナ「まあ其れもそうですね、後々お通ししますね」 俺「そしてミーナ君、今一番の問題はだ、お腹が空いたって所か」 ミーナ「あら、ソレなら何か料理を……」 俺「いや大丈夫だ、今から作ってくる」 ミーナ「そうですか、じゃあお待ちしてますね」 アレでも気を使っているように見える、取り敢えずパスタでも作るか。 水は小型浄水装置、通称G.E.C.Kがあるので無限にあると言ってもいい。 故に何となくトイレは全部ウォシュレット付き、水は全部風呂水でも飲める素敵仕様。 砂漠でパスタ作っても大丈夫、イタリア軍が強くなるよ、やったねムッソリーニ。 ついでに風呂場も地味に電気沸騰させた水と、普通の水の二種類が出せるようにしてある。 尚さっきいた部屋は食堂の隣である、理由?食堂と便所と風呂と部屋にしか使わないのに離す理由がない。 俺「冷蔵庫は自前、というか城を改築したの私超頑張った私、命令したのダウディングのオッちゃん」 俺「大親友がパスタの私、一人で笑って楽しいね」 俺「今日は取り敢えず肉でいいか」 俺「……取り敢えず2人分」 俺「肉……肉、そうだ、鳥を軽く焼いて、そうだなトマトでも……」 俺「……よし!」 鶏ささ身のスパゲッティ、スパゲティを作りそこに炒めた鳥のササミを一口サイズに切って投下。 トマトをひねり潰し、炒めて半液状にし醤油とソース、胡椒、固形ヴィヨンで味付け。 あっという間に手軽なパスタ2人前完成、取り敢えず簡易充電電池コンロごと隣の部屋に運び、他の人を待ちつつ食べる事に。 ミーナ「美味しそうなパスタ……と其れは何かしら?」 俺「気にするな、簡易コンロだ」 ミーナ「其れならいいんだけど」 そんな事を言いながらパスタを食べる、何でも恐らくもうすぐフランチェスカ・ルッキーニ少尉が到着するとのこと。 俺「どんな子なんだい、いい子だといいんだけど」 ミーナ「少しヤンチャな子らしいわ、けれど12歳だし仕方が無いのかも知れないわね」 俺「12ならしょうがないな、まだ小学校とかの年齢だろうし」 ミーナ「それにしても、此処の電気施設は見てみたけど随分色々あるのね?」 俺「まあ、色々改造したしね、もっとも私以外が弄れないようにプロテクトは掛けてあるけど」 ミーナ「そう……あら?」 外からエンジン音がする、輸送兵が届いたのだろうか。 ミーナ「では俺元帥、様子を見てきます」 俺「ああ、行ってらっしゃい」 俺(……てか食べるの早いな) 暫くズルズルスパゲティを食べた後、遠くで子供の楽しそうな声が聞こえてくる。 少しミーナ中佐が困っているような気がしつつスパゲティを食べ終え、皿を机の上から食堂の流しに置き。 その後部屋で待つ、先程地味に渡された資料によると天才的戦闘センスだが、子供らしさが抜け切れ無い悪ガキ。 とのことだが、まあお菓子とかで釣ってみるか? 次の瞬間、ドアがノックされ2秒後小麦色の健康的少女が入ってくる。 キョロキョロと忙しなく色々なところを見ており、落ち着きの無い様子だ。 俺「お嬢ちゃん、お菓子好きかい?」 ルッキーニ「お菓子好きー!くれるの?!」 次の瞬間ミーナ中佐が叱ろうとするも、其れを目で制し、ふと自分の部屋の小型冷蔵庫からポッキーモドキを取り出し。 15本ほど与え、キラキラした目で其れを受け取ると、直ぐ様ポリポリと食べ始めた。 予想通り腹でも空いてたんだろうか、まあ子供だしそんなもんだろう。 ルッキーニ「ニヒヒーお姉ちゃんありがとう!」 俺「さて、君には明日から此処で、ネウロイを撃墜するお仕事に付いてもらうが、どうだいできるかい?」 ルッキーニ「うん!」 俺「よし!良い返事だ!今日はミーナ中佐から部屋を教えてもらったら、後から来た人と遊んでて構わないよ」 ルッキーニ「はーい!」 俺「後、お菓子は座って食べること、いいね?」 ルッキーニ「はーい!……所でー」 次の瞬間、いきなり胸を鷲掴みにすると、揉みしだき始めた。 ミーナ「」 ルッキーニ「……ざんねんしょー……」 俺「おっきいほうが好きかい?」 ルッキーニ「うん!マンマも大きかった!」 俺「よし、ちょっとまっててね……」 意識的にはどの位大きくしようか……Dか? 次の瞬間、見る見るうちに大きくなっていくおっぱい、其れに合わせてバランスを取るため身長体重も合わせ。 身長165、体重52の黒髪Dっぱいに変更。 ミーナはかなり唖然とした表情でコチラを見ているが、まあルッキーニもコレくらいなら満足するだろう。 ルッキーニ「わぁぁー!!すごいすごーい!」 ミーナ「それで良いんですか俺元帥……」 俺「まあ其れくらいで満足するなら構わんよ、」 ミーナ(扶桑の人間ってあんなんばかりなのかしら……) ルッキーニ「ふっかふっかおっぱいー!」 俺(……少し擦れ、あふん) 一通り触ると、少し諦めた感のあるミーナと共に部屋に向かうルッキーニ。 何でも、志願兵でネウロイを倒しに来たらしい、祖国を憂うというよりは家族の為なんだろうなぁ。 一息つきながらぼーっとしていると、次の人が届いたのか小走りの足音が聞こえる。 そして数分後、ドアをノックし次はミーナと……二人組が入ってくる。 バルクホルン「ゲルトルート・バルクホルン大尉です!」 ハルトマン「エーリカ・ハルトマン……ふぁああ……」 ハルトマンの方はかなり眠たそうな様子で、恐らくさっきまで飛行機の中で寝てたのだろうか。 ソレを見てバルクホルンの方はかなりご立腹の様子だった。 バルクホルン「ハルトマン!お前は……!」 俺「えーっと、バルクホルンに……ハルトマンね、よし分かった」 バルクホルン「……?」 俺「ネウロイ、倒してくれるかなー?」 ハルトマン「良いともー……」 バルクホルン「なっ……!俺元帥!そんな上司でこの最前線基地の主任が務まりますか!シャキッとして下さい!」 俺「私元帥だけど普段民間人だから無茶言うなよ……」 バルクホルン「……ッ!」 俺「まあ落ち着けって人には人のノリがある」 俺「其れを崩してまで無茶をしてくれ、とは言わん、自分のペース、流れで任務をこなしてくれ」 バルクホルン「クッ……わかりました」 俺「まあ、私もソコまできつくは言わないが……ハルトマンもソコソコ節制のある生活を送るように」 ハルトマン「ふぁーい……」 俺「……出来ない場合、罰ゲームが待っているので心して掛かるように、以上」 ハルトマン「えっ」 少しハルトマンは驚いた様子だったものの、ミーナに連れられて二人は部屋を後にした。 ……やべぇ、バルクホルン大尉履歴書見たけど、少しシスコンの質があるなコレ。 今度ロリ姿で接近してみるか?……やめとこ。 俺「あ……ココア切れた」 俺「こういう時はココアメーカーでも作っときゃ良かったかな、って何時も思うけど造らないんだメンドイからかな」 そんな事を言いつつ、ココアの粉を引き出しから取り出し、砂糖と混ぜ。 後ろの小型冷蔵庫の上のポッドからお湯を入れ、小型冷蔵庫の中身の牛乳を混ぜる。 俺「私猫舌だから、熱いままのは飲めねぇんだよなぁ……」 俺「……うん、美味い何かBGMでも掛けようかな……お、コレは……」 そんな事を考えつつ、音楽再生機の画面に表示された曲名の一つを押す。 『私は私の故郷で暮らしを営む、この愛しい人々と優しい人々を愛している』 『だって彼らは、貴方を決してガッカリさせないから…』 俺「……暫くはコレで行くか」 シャーロット「おや、なにかイイ曲が聞こえると思ったら、此処は音楽室ですかなー?」 そこにいるのは身長は167cm、体重60kgの今の私のおっぱいすら負けそうなグラマーなおねーさんだった。 俺「おや、ミーナ中佐とは会わなかったのかい?」 シャーロット「いやー、ストライカーで来たから気づかなかったのかも知れません」 俺「まあそれならいいんだが、ネウロイやっつけてくれるかなー?」 シャーロット「いいともー!」 俺「よし良い返事だ、このトッポモドキでも齧りながらミーナ中佐を探して自室を決定してくれ」 シャーロット「わーりゃーしたー」 俺「……あ、そうだ、ルッキーニ少尉とも仲良くしてやってくれないかな、あの子は子供だから」 シャーロット「へ?まあ私は構いませんが、どんな子なんです?」 俺「おっぱいが好きな女の子だよ」 シャーロット「ハハハハ、まあ取り敢えず会ってみます」 俺「ああ、そうしてくれると嬉しい」 シャーロット「それでは失礼します」 そう言って楽しそうにポッキーかじりながら、シャーロットは部屋を出て行った。 うん、いい感じの人だな、まあ一本筋の通った威勢のいいヤツだよなぁ。 さて後4人か、ボーっとしているとコレまた飛行機の音が聞こえる。 俺「あー来たかなー」 数分後ドアをノックして、二人の少女と後ろからミーナが入ってくる。 エイラ「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉だゾ」 サーニャ「サーニャ・V・リトヴャク中尉です、よろしくお願いします」 俺「あゝ宜しく、ネウロイやっつけてくれるかなー?」 エイラ「いいともー」 サーニャ「いいともー…」 俺「よし、ところでポッキーゲームって知ってるかな?」 エイラ「何なんだ?ソレー」 俺「ここにポッキーモドキがあります、二人で君たち二人で両端から二人で食べて、先に口を離したほうが負け」 ミーナ「ブッ」 エイラ「なっ、ななっ」 サーニャ(……エイラとなら……) 俺「取り敢えず、そんなゲームがあるって事だけ教えておきます」 俺「そしてコレは偶然ですが、此処にポッキーモドキが一箱偶然あります……コレは君たちに上げましょう」 エイラ「」 サーニャ「……」 エイラ「……きょ、今日ダケダカンナー……」 ミーナ中佐がコチラを笑顔で見ていた、今日私は死ぬだろうな。 だが反省はしていない、資料には二人はお互いに『非常に』仲が良いと書いてあった、ソレの他意の確認のためであって。 ただ何となく、あの二人が初々しくもポッキーゲームやらないかなー、なんて事はない、多分。 さーてポッキー後で作らなきゃなー、まあ作るのは簡単なんだけどな、機械作ったし。 俺「……ふぅ、も4時か……」 今日一日は大分のんびりしている気がする、ここ最近出撃、撃墜を何かいかやってたしもう報告するのもメンドイよ。 すると、また飛行機の離着陸の音がする、次は誰だ? 数分後凄く引きつった笑顔のミーナ中佐と、はっはっはっと笑う豪快な少女、そしてお嬢様風少女が現れた。 坂本「坂本美緒大尉だ!」 ペリーヌ「ペリーヌ・クロステルマン中尉ですわ」 俺「さて、ネウロイ倒してくれるかなー?」 坂本「いいですとも!」 ペリーヌ「いいt……いいですとも!」 俺「よし、後別にいいともーでも、いいですともでも、どちらでも構いませんよペリーヌさん」 ペリーヌ「なっ……うぐぐぐ……」 坂本「ハッハッハッ!まあ宜しく頼みますよ俺元帥!」 俺「よし頼まれた!今日はストライカーがない為、戦闘任務は全員有りません、各自休息を取ってください」 坂本「了解しました」 ペリーヌ「了解ですわ」 俺「今日はミーナ中佐に従って各自部屋で休んでおくように、後ミーナ中佐はソレを各自に伝えといてください」 ミーナ「わかりました……それと俺元帥あとで話が」 俺(あわ、あわわ、あわ、慌てるなコレは孔明の罠だ) その後ミーナ中佐が部屋を出たのを確認後、格納庫に走る。 電気は全部充電電池で、一週間は持つようになっている、要はちょっと逃飛行。 格納庫で内部無線を開き、少し考えた後連絡放送を告げる。 俺「緊急ネウロイ捜索任務発令!俺元帥は直ちにネウロイ撃墜に向かってください!」 ミーナ「なっ!」 俺「その他の人員は今日はお休みです!楽にしててください!では!」 ミーナ「待てー!」 その後ミーナ中佐が来る前に空に飛び立つ私、一人でネウロイ撃墜して何が悪い。 第一宇宙速度で城を尻目に、ドーヴァー上空に来ると、マジでネウロイを発見。 富獄よりは小さいものの今回はかなりの大型らしく、アチコチに対空レーザー発射口を備えている。 俺「ネウロイ発見撃墜します!」 ミーナ『無茶です!かなりの大型ですよ!』 俺(無線、そういや作ってあったんだっけ) 俺「こんなヤツらの為に、これ以上誰かの涙を見たく無い!みんなに笑顔でいてほしいんです!」 俺「だから、見てて下さい!オレの…戦闘!」 ミーナ「俺元帥!」 今日はR-9φ実は波動砲が改良されていて、ラストダンサー作戦時より威力が上がっているらしい。 チャージ30秒!ウィ……*Opps!* 次の瞬間レーザーがコチラに向けて発射、スレスレで回避し其儘下を通る。 だがよく考えたら、レーザー発射口は下の方にも付いている訳で。 雨あられのようなレーザーを掻い潜りつつ、下を抜けネウロイのケツに照準を合わせる。 ミーナ『シールドも無しにあの雨あられの中を駆け抜けたというの…?』 俺「あぶねぇあぶねぇ……オヤスミケダモノ」 次の瞬間、連続して射出される波動砲、そして波動砲に全身を核ごとゴリゴリと削られたネウロイは。 全身が崩壊し、粉雪のように白い何かに替り、消えていった。 ミーナ『凄い……』 俺「私お疲れさん……」 ミーナ『ですけれど、帰ったら【お話】は有りますからね俺元帥』 俺「」 その後帰った後、ミーナ中佐にメチャクソに怒られました、ミーナさんマジおっかない。 皆さんも土下座をしたくなかったら、ミーナ中佐は怒らせない方がいいですよ。
https://w.atwiki.jp/trpgken/pages/2236.html
【今回予告】 夜空に月が満ちるように、欠けたわたしは完成したの。 偉大な行いはあまねく大地を覆い、全てが燃えて、全てが血を流す。 ねえ綺麗でしょう? この翼、この瞳、この輝き。 祝福の光が見渡すかぎりにあふれ、あらゆる欺瞞を祓うでしょうね。 ねえファエルちゃん。あなたを守ってきた真っ赤な嘘を、全部暴いてあげるから。 異界戦記カオスフレアSC キャンペーン “最輝のスピカと間もなき天使” 第三話 「冒涜の行動(けがれたつばさ)と間もなき天使」 人の種は腐っている。だから、わたしはここにいるのよ。 【ハンドアウト】 ファエル用ハンドアウト パス サリュ への 任意 黒の世界を奪還することに成功し、UCクラスの五人はその隠れた底力の一端を示した。 君たちは世界水晶奪還作戦へと正式に任命され、束の間の休息を経て、新たなミッションに挑む。 次なる舞台は──祈りと神々が守護する赤の世界、ティエラ・エリュトロス・エオス。 そこは君の(恐らくは)友人であるサリュの故郷であると共に、今まさに彼女によって脅かされている孤界だった。 レヴィ用ハンドアウト パス ティファニー への 憧憬 君の師匠にして育ての親であるティファニーは闇堕ちから救われ、コンストレイションに復帰した。 現在は闇堕ち時の悪影響の調査や後遺症の検査・除去のため医療用チューブ型浴槽に入れられているが、命に別状はない。 力と向き合う決意──そして若干の痴態を見せて勝利した君に、素面のティファニーはどんな言葉をかけるのだろうか。 ミーナ用ハンドアウト パス Dr.ミザエル からの 期待 僅かな休暇にも性能試験を欠かさない君はその日の夕刻、躯体の調整後にDr.ミザエルと二人で入浴していた。 風呂場で君の高性能に改めて感心して見せたあと、不意に意味深っぽい話をふっかけるのは彼女の趣味の一つだ。 その日の話題は、「今ここに居るというのは、どういうことだと思うかい?」というもので……。 ツェン用ハンドアウト パス 真珠 への 信頼 (時系列としてはミーナOPの直後)黄昏時、コンストレイション本部の大浴場には多くのカオスフレアが集まる。 初めて知った血の味を求めてみたり、必要なのか分からない機能を披露したり、笑顔でひどいことを言ったり。 いつものようにはしゃぐ仲間たちの中で、君は笑顔を纏いながらも、心の底でこの場から欠落している元部下たちを想っていた。 そんな君の内心を知ってか知らずか。声をかけてきたのは、この頃苦労人ポジションを分け合うようになった真珠だった。 ※準備中 【何かありましたら】 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/2943.html
https://w.atwiki.jp/mayshared/pages/909.html
壊物機 第三話 中編 ラノで読む ・OTHER SIDE マスカレード・センドメイル首領、レオナルド・ダ・ヴィンチは一言で言えば天才だった。 そのコードネームの由来である歴史上の万能天才芸術家と同じようにダ・ヴィンチの発想は常人の域を易々と越え、人類が未だ手を届かせることの出来ない超科学の技術さえも手に入れている。 超科学。それは身体強化・魔術・超能力と並ぶ異能の四大系統の一つ。 しかし四大系統の一つでありながら他の三系統とは趣を異にする系統である。 なぜなら、超科学は理解不能だからだ。 使っている者の多くにさえ、それが何であるか理解できない未来的な、あるいは異界的な技術の結晶……それが超科学のアイテムだった。 超科学の異能力者の中には天啓の閃きと共にアイテムの設計・作成を行う者や、部分的に知りえた超科学の知識を用いて試行錯誤の末にアイテムを作り出す者がいる。しかしながら、超科学を完全に理解した上でアイテムを作る者は恐らく一人としていないだろう。 ダ・ヴィンチも例外ではない。 しかし、ダ・ヴィンチの異能は『超科学の理解』であった。 矛盾するようだが、超科学を理解する異能は決して珍しい異能ではない。そうと知り、扱える者が『理解』の異能の持ち主の中で少数しかいないために珍しいと誤認されている。 超科学を理解すると言っても全知の存在の如く理解するわけではない。理解の異能は、理解する権利だ。 医学、哲学、科学よりもなお高等な学問として超科学を認識し学び会得する権利、超科学の入学許可証だけが本人も知らぬうちに手渡されているようなもの。 それは異能と言うにはあまりにも目立たず、異能に携わる機関にも異能力者として存在を知られることが稀なために異能やラルヴァのことを知らずに朽ちていくものも多い。 仮に異能の存在を知ったとしても超高等学問としての超科学を理解する権利をもっていながらそれこそ他の学問と同じように理解することを放棄し、一生を終える。そんな『理解』の異能力者は有史以来、何人に上ろうか。 ならばやはりダ・ヴィンチは例外であったのかもしれない。 ダ・ヴィンチは異能……それも超科学に携わる家柄に生まれ、最も幸運なことに超科学を学問として習得できるほどに高い知能を持っていた。生まれながらに人よりも高い位置に立っていた。 ダ・ヴィンチは持ち主である父母さえも理解は出来ない超科学の資料を読んで幼年期を過ごし、成長してからは自らの手で超科学のアイテムを作り、技術を磨いた。 そうして積み重ねた理解と技術の集大成が“最も美しい”芸術品モナ・リザと、センドメイル最強の機兵――『無欠なるウィトルウィウス』である。 ・・・・・・ 強さとは何か。 かつて、アルフレドが最強のフリーランサーと呼ばれる前にそんなことを尋ねた。あいつの答えは『力、スピード、防御力、戦闘技術、戦術、精神力、特殊性。あとは……魅力と運かな。それらの合計値が強さだよ』という特に面白みもないものだった。それだけの要素が揃っていれば強いのは当たり前だ。 それでもその答えが正しいものだったのなら……ウィトルウィウスとそれを駆るダ・ヴィンチは紛れもなく強さの化身だった。 そしてどうしようもないほどに、ウォフ・マナフとは強さの桁が違う。 ありえないほどに、強い。 『く、うぅぅぅ!』 ウォフが苦痛に悶え、必死に悲鳴を噛み殺している。ダメージを共有する俺もまた、右腕に強い痛みを覚えている。この痛みはウィトルウィウスによってウォフ・マナフが破壊されているダメージによるものだ。 対してウィトルウィウスは無傷。攻撃しても、こちらが一方的にダメージを受けている。 『たぁぁぁぁッ!』 ウォフ・マナフが右腕を振るい、叩きつける。 だが激突の直前にウィトルウィウスがウォフ・マナフの右腕を左の裏拳で弾き、続けざまに右のフックで頭部に打撃を食らわせる。 さらには体勢を低くしてガードの空いた懐へと素早く潜り込み、左のリバーブローで横腹を撃打して弾き飛ば……!? 「が、ハッ……!」 腹部に奔る激痛に血を吐き、無様に膝を着く。 ……こいつ、さっきから動きがロボットのそれじゃねえ。 巨大ロボット同士の戦闘で、こっちの攻撃にカウンターを合わせて一方的に削るなんて芸当はロボットアニメの中でだけやりやがれってんだ! 『ふむ……。存外にしぶとい。装甲は脆いが、フレームは相当に頑丈なようだ』 馬鹿にする様子がまるでない、ただ感心したような声がウィトルウィウスのスピーカーから流れる。 『違うか。むしろ装甲が……』 「戦闘中に人のことをグダグダ解説してんじゃねえ!!」 ウォフ・マナフに意を通し、再度の攻撃。重厚な装甲に覆われた脚部による後回し蹴り。 ウィトルウィウスは即座に反応し、こちらと噛み合わせるように後回し蹴りで迎撃してくる。 激突、しかしやはり砕けたのはウォフ・マナフの装甲のみ。ウィトルウィウスの装甲には若干の変形が見られるだけだった。 俺の右足にも痛みが返ってくる。が、そんなことには構っていられない。構う暇があるなら倒す手段を考えるのに使う。 あいつを倒す方法。 試案一、機体無しで操縦者《ハンドラー》同士の素手喧嘩に持ち込む。不可。了承するわけがない。こちらと違ってダ・ヴィンチは機体の中にいるので強制的にもちこむこともできない。 試案二、ここから脱出して武器を入手してから再戦。もしくは臨戦態勢にないダ・ヴィンチを暗殺。不可。扉は既に閉ざされて脱出不可能。 試案三、戦略的降参。却下。仮に受け入れられたとしてもそのときウォフは俺の手から離れる。 試案四、真っ当に戦う。 「しかないか……」 ならば勝つために相手の戦力を考察する。さし当たって考えるべきは……ウィトルウィウスの早すぎる反応。 装甲の硬さや力の強さも相当だが、そんなものはこれまで戦ったセンドメイルの構成員も持っていた。ウィトルウィウスにあり、これまでに無かった最たるものは……尋常ならざる反応速度だ。 ウィトルウィウスの防御はあのゴーレムやダ・ヴィンチが搭乗していないときのウィトルウィウスのように攻撃に対応でオートガードするのとは訳が違う。こちらの攻撃を見切り、判断し、正確に徒手空拳で迎撃している。 それが一番ありえない。 見切るまではわかる。ウォフ・マナフの動きは何も超高速というわけじゃない。見切って、どう対応するか判断を下すまでは訓練した人間ならば可能だ。 しかし、人が動かすロボットでそれを実行するのがありえない。どうしたって操作するタイムラグが生じて、出遅れるはずだ。 それがウィトルウィウスにはまるでない。では、乗っているだけで操縦していない。実はまだ自動操縦で動いているという線はあるか? それも、やはりない。後回し蹴りに後回し蹴りで返す、そんな遊び心がある相手が自動操縦の筈がない。ウィトルウィウスはダ・ヴィンチの意思によって動かされている。 だからやはり、ウィトルウィウスはありえない。 ウィトルウィウスほどの完成度を誇る機体を作れるだけの設計者《デザイナー》、開発者《アセンブラー》にして、超高速操作が出来る操縦者《ハンドラー》。 そんなバケモノがいてたまるか。パラメータの割り振りが間違っている。 だから、何らかのトリックがあるはずだ。あるはず、だが……。 「…………」 『御主人様……?』 考えうる限り最悪な展開は……そのトリックを暴いても勝敗には何も関係しないという事態。 トリックを暴くことが勝利条件に直結しない、純粋に実力で勝利しなければならないのなら……。 俺達は、負ける。 ・・・・・・ ・OTHER SIDE ダ・ヴィンチの表の顔はある企業の会長である。その企業は複数の業種に手を伸ばし、成功させたゼネラルコングロマリットであったが、その中でダ・ヴィンチが最初に手がけ、最も大きく成長させたのは意外にも医療器具メーカーであった。 超科学を理解する異能とは言っても個人の適性による得意科目の違いくらいはあり、ダ・ヴィンチが最も得意としたのが医用生体工学であった。 ダ・ヴィンチは人工臓器や義肢の開発に関しては特に優秀だった。それこそ、不可能とさえ言われていた人工肝臓や喪失した手足とまったく同じ働きをする義肢さえ設計することが出来た。それらのあまりに現代技術と違いすぎる技術は国の方針により隠蔽され、表に出ることはなかったが……それでも現代技術でありうる範囲の人工臓器でも十分すぎる利益をあげた。 もっとも、ダ・ヴィンチ本人にとってはより多くの人を救えるはずの人工臓器が隠蔽されたことも、自分の開発した人工臓器が多くの利益を上げたこともさしたる関心事ではなかった。 ダ・ヴィンチは……試していただけだった。 自分の持つ超科学の限度を。 いったいどれだけ人間に近づけ、人間とは違うものが創れるのかを。 “巨大なロボット”を創れるかを。 ダ・ヴィンチがそんな目的を持った理由はダ・ヴィンチ自身も覚えていない。子供のころに聞いた御伽話や神話にまつわるものか、子供心にも記憶に残るジャパニメーションの影響か。あるいは、異能そのものが『想像し、創造せよ』と天啓を下しでもしたのか。 いずれにしても、ダ・ヴィンチはロボットが作りたかった。 それゆえにダ・ヴィンチは試行し、錯誤することなく一体の機兵を創り上げる。 『無欠なるウィトルウィウス』 頭部、胴体の内臓が収まっているべき部位には機械式の動力や操縦席、制御機構が収まっている。しかし逆に、四肢は人間のそれだった。 特殊な金属繊維で造られた人工筋肉、極めて強固かつ軽量な人工骨格、柔軟でありながら耐久性に富んだ人工皮膚。四肢や関節、骨格の構造は人間のそれと酷似した構造であり、それでいて巨人を上回るほどの力を持っていた。 そうして出来上がった素体に装甲を――鎧を被せたのがウィトルウィウスである。鎧の重量をしてその動きは軽量かつ力強く……何よりも人間が出来る動作の全てが出来た。 そしてウィトルウィウスの操縦システムは最速で人間の意のままに体を動かす仕掛けもあった。 完璧であり、完全無欠であった。 ウィトルウィウスを創り上げたときにダ・ヴィンチは感慨もなく思った。 『少なくともあと十年はこれを越える機体は現れない』 ・・・・・・ 数度に渡って拳を合わせてもまるでウィトルウィウスのトリックは読めてこない。このままではトリックを暴く前に、こちらが削り殺される。 『ウォフ……! 時感狂化を使うぞ!』 時感狂化。永劫機ウォフ・マナフの固有機能。 相手の時間感覚を狂わせ強制的に隙だらけにする異能であり、純粋なスペックで劣るこちらが唯一相手を上回れる一点。 『で、でも御主人様!』 ウォフが躊躇の声を上げる。その気持ちはわかる。時感狂化にエネルギーを使えばウォフ・マナフの性能は僅かではあるが、ここからさらに低下する。何をエネルギーにしているかはわからないが、それだけは何度かの試しで把握している。 そのデメリットを背負って相手に隙を作り出しても、ドラゴンキラーを持たないウォフ・マナフの攻撃力では決定打を与えられない。それも把握している。 ただし、今この場で一回限りならそれは当てはまらない。 『構わねえ! やれっ!』 『……時感狂化発動《マッドタイム・スタート》!』 回避不可能の感覚干渉攻撃、時感狂化がウィトルウィウスの内側のダ・ヴィンチを捉える。これでウィトルウィウスは数秒の間は身動きが取れない。 だから、この隙に……デカイ一撃をお見舞いしてやる! 俺の意思を受けたウォフ・マナフは背後に下がり――俺達を乗せてきた路線バスを――この場で最大の火力を持つ武器を持ち上げた。 ――ただちにこのバスを爆破いたします そう言ったのは、バスに爆弾を積んだのは……テメェらだ!! 『タァアアアアアアアアッ!!』 ウォフ・マナフは爆弾を積んだバスをウィトルウィウスに向けて放り投げる。 激突の衝撃で生じた火花はバスのガソリンを爆発させ、その爆発は積まれていた爆弾にも引火して大爆発を引き起こした。 ウィトルウィウスは、爆炎と黒煙に包まれた。 「…………」 ウォフ・マナフだったら木っ端微塵になりかねない大爆発だった。それでも、まだ油断は出来ない。生き残った可能性は十分ある。 それでも、これだけの爆発の直撃を受ければ無傷では済まない。そうして行動に支障が出るだけのダメージを負えば、こっちにも勝機が生まれる。それを狙って仕掛けた……が。 「出て来ない……?」 時感狂化はもう切れているはずだ。なのに、炎の中で動くものの気配がない。 まさか……。 「やった……のか?」 『それは俗に言うフラグだ』 「!?」 ダ・ヴィンチの声! 俺は弾かれたように声のした方向……20メートルほどの高さの天井を見上げる。 天井は爆発の黒煙に包まれて見えずにいたが、見上げて少しして火災報知器と連動した消火装置が動いて水を振りまき、同時に換気装置が煙を排出した。 そこに、ウィトルウィウスはいた。 ヤモリか、蜘蛛か……あるいはそれこそニンジャのように天井に張り付いている。四肢を天井に付き立て、逆さまになってこちらを見下ろしている。 その様は煙で多少煤けてはいたもののまるで無傷だった。 「……なんでだ」 『このウィトルウィウスはサイズに合わせてスケールアップしてはいるものの人と同じ構造をもつため身体強化異能力者と同じように振る舞える。天井に張り付くくらい造作もない。それにここの天井は作りがしっかりしている』 「そうじゃねえ……!」 俺は内心の動揺を捻じ伏せようとして、語気を荒げる。 しかしそれでも動揺は抑えられない。これまでで一番ありえないことは起きたからだ。 なぜなら、あれは、あのアルフレドさえも、逃れることは出来なかったはずの…… 「時感狂化が効いていないのか!?」 心の底からの驚愕を叫ぶ俺をよそに、ウィトルウィウスのスピーカーからダ・ヴィンチの声が流れる。 『……? ああ、そういえば少し意識が飛んだ。これが噂に聞く時感狂化か』 時感狂化は、効いていた……? 「だったら何で……」 『時感狂化をかけられたのにどうして回避できたのかということか。君は、私達がウィトルウィウスに乗り込むところを見逃したのか?』 私達がウィトルウィウスに乗り込むところ? …………私、『達』!? 「まさか!」 『ウィトルウィウスは私とリザの二人で動かす“二人乗り”の機兵だ。だから、片方が動けなくても少しの間なら大した問題にはならない』 ――天敵。 時感狂化が通じないんじゃない。通じても……意味がない。 「畜生が……!」 『……? 単に能力の一つが通じないだけだ、そんなに悔しがる必要はない。さぁ、君達の実力で掛かって来るがいい』 それで勝てるんならいくらでも真っ向勝負してやる。 だが、特殊性を除いたあらゆるスペックでウォフ・マナフはウィトルウィウスに敵わない。 真っ向勝負に勝ち目は……ない。 『来ないのならこちらから。頑丈な機体だが、こうすれば壊せるだろう』 俺とウォフの手が届かない上方からダ・ヴィンチは言い放ち――飛び降りた。 空中で姿勢を制御して回転、体勢を地に背を向けた状態から両足を下とする体勢へと移行し……否。 右足を地に、左足を天に向けた独特の体勢。それを一目見たときに奴が何をしようとしているかは察知できた。できたが……遅すぎた! 「避けろウォフッ!!」 『え?』 対応する間も、あればこそ。 ウォフ・マナフを動かすよりも早く――機体筋力・機体重量・地球重力・遠心力を合力したウィトルウィウスの踵落しがウォフ・マナフの右腕を付け根から断ち切った。 ・・・・・・ ・OTHER SIDE 『少なくともあと十年はこれを越える機体は現れない』 ダ・ヴィンチはそう考え、その思考は間違いではなかった。 間違いではなかったが……一つ失念し、一つの不運があった。 失念は、自身の関わる異能という世界が科学技術だけで成り立っているのではないということ。 科学の一言では説明し得ない奇怪な力を持った機体――永劫機と、同様に異能力を持った機体がこの世界には存在してしまった。 技術力の結晶であり、無欠であるウィトルウィウスにはそうした特殊な異能力が付随していなかった。設計目的を考えれば必要はなかったし、ダ・ヴィンチの超科学の性質からしても純然たる科学技術から外れたそれらの能力を付与することは困難であった。 それゆえに、異能という概念そのものがウィトルウィウスに牙を剥くこととなる。 しかしそれを原因とする苦難がダ・ヴィンチとウィトルウィウスを襲うのは今しばらく後のことである。 この場でのダ・ヴィンチの苦難の原因となるのは失念ではなく不運。 その不運は、ウィトルウィウスがあまりに精巧で、その構造が人間に近すぎたことだった。 ・・・・・・ 意外なことに、右腕が断たれたダメージのフィードバックはそう重いものではなかった。さっきのリバーブローに比べれば感じないと言っても差し支えない痛みだった。そして、状況の悪化もまた今までの比ではない。 ウォフ・マナフは最大の武器であった右腕を喪失した。元がアンバランスに巨大だった右腕がなくなったことで造詣としては逆にバランスがとれたことが少し笑いを誘うが、笑う余裕などあるわけもない。 性能で敵わず、時感狂化は効かず、右腕もなくなった。 「三重苦じゃねえか。素晴らしいなぁ、おい」 とことん神様は不公平らしい。……ああ、俺にくっついてる神様は疫病神だったっけか。あっちは芸術神《ミューズ》かなんかか? 何にしても疫病神よりはご利益がありそうだ。 『御主人様……』 『……右腕はくっつけられるか?』 『…………』 無理、か。 「……どうしたもんかね」 ただでさえない勝ち目がもうトコトンない。勝機の一筋も掴める気がしない。 こっちが一方的に力負けするほど強く、同じ攻撃をぶつけ合わせてもこちらが一方的に砕けるほど硬く、ロボットとは思えないほど速く、人間と同じ構造で人間ほどに精巧な動きが出来る。そんな相手にこのウォフ・マナフで……………………? 強く、硬く、速く、…………人間と同じ? 「……遅い」 いくらなんでも、あんまりにも、遅い。 気づくのが、知るのが遅すぎた。 そうと知っていたなら。まさかそこまで完成度の高い人型だと知っていたなら。 話は、もっと簡単だった。 『御主人様? 何か気づけたんですか?』 『気づけたっつうか、相手が勝手に教えてくれた。まぁ、もう意味がない。右腕が使える間なら話は別だったけどな……』 『使えますよ……?』 何? 『お前さっき』 『くっつけられませんけど使い物にはなります。それで、右腕でどうすればいいんですか?』 『……あいつを止めろ。あと、ウォフ・マナフの動作制御《コントロール》は全部俺に寄こせ』 『わかりました』 了解の返事の後、ウォフ・マナフの制御が俺に移る。俺は実行する前に、確かめるように左腕を振り、手を開き、閉じる。 ……まだこのくらいの精度で動くならやれるか。 『どうやら体勢は整ったようだな』 右腕を断たれたこちらが準備を終えるのを律儀に待っていたのか、ウィトルウィウスは今まで攻撃を仕掛けてこなかった。上から目線の余裕ぶったやり方だが、感謝してもいい。 「待っててくれたことには礼を言うぜ」 『気にするな』 「礼に、膝どころか額を擦りつけるくらいの土下座させてやる」 『やってみるがいいさ』 言葉の応酬を競争の引き金に、ウォフ・マナフとウィトルウィウスは互いに向かい駆ける。 速度はやはりあちらが速い。しかし、それは問題じゃない。 問題はどうやってウォフがあいつの動きを止めてくれるか。 その問題の答えは、すぐに訪れた。 唐突に、ウィトルウィウスが体勢を崩す。 『!?』 初めて、ダ・ヴィンチの驚いた気配を察した。俺のほうも今日何度目かの驚きだ。 「なるほど、右腕をそう使って動きを止めるのか」 俺の視線の先にウォフ・マナフの右腕はあった。 断たれたはずの右腕が、相手の両足に絡みついていた。 それは蛇か何かのように絡んでいるのではなく、肘で折り返して上腕と下碗で挟み込むようにウィトルウィウスの大腿部を押さえ込んでいる。可動範囲の多い膝から下ではなく動きの少ない膝から上を狙ったようだ。 右腕一つで相手の両足を押さえ込む、そんな芸当は両者のサイズが同じなら出来なかっただろう。しかし奇しくもウォフ・マナフの右腕はそれが可能なくらいに、巨大で長大だった。 人ならざるモノが人のカタチをしているがためにウィトルウィウスは人の動きが出来る。 だがしかし、人ならざるモノだからこそ人には出来ない動きをウォフ・マナフはしてみせた。 対極の利はウィトルウィウスだけのものではない。 如何に完全無欠の性能を誇るウィトルウィウスといえど、自身とほぼ同等の重量を有するウォフ・マナフの右腕をぶら下げたままで動けるはずもない。 ウィトルウィウスの下半身は死んだ。 「上出来だ」 体勢を崩したウィトルウィウスの左側面に俺の操作するウォフ・マナフが回り込む。 やはりウィトルウィウスの対応は早く、即座に左腕を伸ばしてくる。 しかし不十分。 下半身の伴わない動きはどうしても精細さと威力を欠き、対して俺の意思が完全に制御しているウォフ・マナフはその左腕に的確に対応する。 左腕を用いて、伸ばされた左腕を絡めとリ、重心を移動させつつ敵手の背面へと動き――前方へと倒れこむ。 両足と左腕を抑えられてバランスのとれないウィトルウィウスは抗えず膝を着き……額を地下演習場の床に激突させる。 同時に重く鈍い破壊音が地下演習場に響く。 何の音か? ウィトルウィウスの左肘の関節が圧し折れた音だ。 腕が繋がっているところを見ると、人間と同じで骨格と筋肉と表皮があるらしいが、無事な表皮の下で関節は既に破壊されている。これまでの堅牢さからすれば、異常なほどにあっさりとウィトルウィウスの腕は折れたのだ。 それが可能になったのはウォフ・マナフの独力ではなく梃子の力点作用点支点、そして倒れこむ際にウィトルウィウスとウォフ・マナフの分を合わせた重量をも利用したからだ。 ダ・ヴィンチがこれほどの機体を創り上げるのも技術なら、俺のこれもやはり技術。 人間の関節を破壊し制圧する技術だ。何度も何度も繰り返した事柄……目を瞑ってようが片腕しかなかろうができる。 ダ・ヴィンチは知る由もなかったことだろう。 俺が、どれだけ人体の破壊作法に習熟しているかということを。 武器商人ニクス家の長、あるいはその先達たる者達は後継者に言い続けた。 『我々は武器商人である。武器を求めるものあらば売り渡す。だからこそ武器の扱いに習熟することは重要である』 『そしてそんなことよりもはるかに重要なのは、武器なんぞに頼らない暴力を身につけることだ』 名言だ。武器を売り渡す側だからこそ、武器がなくても勝つ術を身につける。全くだ。その思想に基づいた技術と訓練法は俺の代にも受け継がれているし幼少からの習い事の一つだ。 だから俺も人体破壊に関しては一般人の中ではそれなりの部類に入ると自負していた。あのアルフレドでも異能無しで俺と模擬戦しようとは思わないと言っていた。 しかしながら、俺の技術はウォフ・マナフでの戦闘には何の役にも立たなかった。 なにせ相手は人間と似た形をしていながら関節もクソもないゴーレム、ウォフ・マナフより遥かに小さな人間《アルフレド》、鋼鉄の魚だ。こんな連中にどう対人用の技術を使えと? だから俺はそんな連中と戦うためにウォフ・マナフの武器を欲した。 だが、ウィトルウィウスは違う。ダ・ヴィンチがご高説くださったように、人体と同じ構造の、人体と同じ動きが出来る機兵。尋常ではなく精巧な人形《ニンゲン》。 だったら……そんなもんは俺の技術の破壊対象以外の何者でもない。 そんな相手が武器も使わず、素手で、あまつさえ両足を封じられて転がっている? なら鴨だ。だったら俎板の上の鯉だ。そして生贄だ。 「バラバラにぶっ壊して……マスカレード・センドメイルとの因縁なんざ終わらせてやる」 ・・・・・・ ・OTHER SIDE ダ・ヴィンチはその天才性ゆえに幼いころから神童とされ、十代には自らの頭脳で生み出したパテントにより一族の企業をEU有数の座へと伸し上げ、二十歳を超えた四年前からは世界の『裏側』にあった|異能芸術家集団《マスカレード・センドメイル》の首領の座に収まっていた。 ダ・ヴィンチは人の上に立ち続けていた。 それでもダ・ヴィンチは傲慢な人格の持ち主ではなく、単純に事実としてそのことを受け止めているだけだった。 そして今、ダ・ヴィンチは悩んでいた。 薄く期待はしていたが、実際に起こるとは想定もしていなかった事態。 ウィトルウィウスが追い詰められていた。 操縦桿――医療用BMI(ブレインマシンインターフェイス)の発展応用により、ダ・ヴィンチの考えたとおりにウィトルウィウスを操作するシステム――を握り、操作しようと試みても両足と左腕は動く気配がない。 両足はウォフ・マナフの右腕に押さえ込まれ、左腕は……死んでいる。 唯一無事の右腕を動かそうとしても右腕だけでは二体分の重量を持ち上げられず、背面の敵機を攻撃することも出来ない。倒れたままの姿勢では両足を捕える右腕への攻撃もままならない。 そうして手をこまねいている間に、コックピットに破壊音が響く。 『背面装甲破損。損傷率28%を越えました』 「…………」 コックピットが軋む。近い未来、ウィトルウィウスとモナ・リザ、ダ・ヴィンチは共に破壊される運命にある 追い詰められ、ダ・ヴィンチは理解した。 自分はもう彼らの上に立っていない、と。 絶対的な性能差を、技量差を、彼らは機転と別種の技術によって捻じ伏せ踏破した。 足元よりも下にいたはずの彼が、ダ・ヴィンチの足を掴み、這い上がってくる。 もう、上に立ってはいない。 「…………」 『真に上に立つ者はいつ如何なるときも余裕は消えず、優位は揺るがず、地に着く膝などありはしない。それが私のポリシーでな』 自分の言葉だった。 しかし今はもう優位は揺らぎ崩れ、膝は地に着いている。 ならば、どうすべきか。 『ならばウィトルウィウスも武器を使用せず、素手で相手をさせてもらうことにしよう』 自分の言葉だった。 嘘にする気はなく、けれど打つ手はそれしかない。 ならば……どうすべきか。 ならば。 「余裕など……消す」 ダ・ヴィンチは二十四年の人生で持ちつづけたものを、勝利のために放棄した。 ・・・・・・ ウィトルウィウスの頭部が開いた。 内部に納まっていたのは、水晶玉を思わせる奇怪な光沢の球体。 それが瞬くように光り、 一条の光線がウォフ・マナフの体を中枢たる時計ごと貫いた。 壊物機 続
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1650.html
377 : ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 28 07 ID 47NtYt7u 魔王を倒すために僕達一行は旅をしている。 行く先々で僕たちは数多の魔物を倒し、いかなる困難も乗り越えてきた。 だがそんな僕達に最大の試練が訪れた。 いや、僕だけに。 「・・・うっ・・・」 「どうしたの慶太?なんか最近調子悪そうだね・・・」 陽菜が優しく声をかけてくれた。こんな彼女は久しぶりに見た気がする。 「私の保井美でも治らないなんて・・・ごめんなさい」 謝らないで、マイエンジェル。その心だけで十分だよ。 「こういうときは呪文よりも愛する人のキスよね!な、なんなら今しようか?///」 あ、それはいいです。そんなことしたら体調どころか命の心配をしないといけなくなるから。 「それにしても保井美でも治らないなんて・・・慶太さん、何か心辺りはないの?」 姉ちゃんが素直に心配してくれている。奇跡だ。それだけで涙がでそうだ。 「・・・なんか一人で散歩していたとき・・・緑色したスライムみたいなやつと遭遇してからなんだけど・・・」 その瞬間、みんなの表情が固まった。 「け、慶太、まさかそいつの攻撃を受けたの!?」 悲痛な表情で陽菜が問い詰めてきた。 「え?・・・たしかに一回だけ受けたけど・・・別に大した怪我は・・・」 僕のその言葉が合図となって皆を突き動かした。 「恭子ちゃん、あなた気亜利ーは使えるの!?」 「・・・っ!」 「そ、そんな・・・」 なんだこの会話は。何か分からないけどすごく怖いんですが。 「とりあえず、どこかの町に着くまで定期的に保井美をかけ続けないと!」 ちょ、ちょっと待ってよ!確かに歩くたびにあの世に近づいていく感覚があるけど、そんなにまずい状態なの!? 「で、でも・・・私、MPが尽きちゃって・・・保井美も留雨裸も使えないんです・・・」 恭子ちゃんが唇をかみしめる。皆もその言葉に悔しそうな表情をする。 「・・・え~っと、間違っていたらごめんね?つまり、僕は近いうちに死ぬって事?」 誰一人答えてくれない。姉ちゃんに至っては手を口に当てて泣き出した。 ・・・・・・・・・・マジ・・・っすか・・・ 「別にたいした問題じゃないだろ?死んだら次の町で生き返させればいいだけじゃねーか」 半透明の太郎君に対して殺意が沸いた。いいよ、もし僕が死んだらお前も道連れにしてやる。 「そっか!その手があったわ!」 陽菜の顔が輝いた。ほ、本当に僕を殺す気なの!? 「慶太が死んだら、太郎君、目我猿を使って!」 「・・・え?」 「成程!その手がありましたね!」 「あんたもたまには役に立つ事言うじゃない!」 「さすが陽菜さん!やはり賢さに秀でていますね!」 目我猿・・・どんな呪文か分からないけど、みんなの反応からして僕が助かる呪文なんだと思う。 「・・・え~っと・・・僕はそんな呪文使えないのですが・・・」 何だと!?たまには役に立てよ! 「・・・ふぅ・・・そっか・・・」 陽菜が例の魔王モードに入った・・・気がする。 「じゃあ・・・生きててもしょうがないっか!」 378 : ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 29 34 ID 47NtYt7u 皆で話し合った結果、僕たちはしばらく野宿することになった。 姉ちゃんに曰く、「この毒は歩かなければ問題ありません」とのことだからだ。 そっか、僕の体には毒があるのか・・・って何の毒かは分からないけど早く血清を打たなければいけないんじゃないの!? 「早く病院に行こうよ!」 「ダメです!歩くと確実に死んでしまいます!ここはおとなしく寝ているのが一番いいのです!」 はぁ!?風邪じゃないんだぞ! 「嫌だ!早く病院か保健所に―――」 「羅理穂ー!」 「うっ・・・ぐぅ・・・」 そこで僕の意識は途切れた。 目が覚めると辺りは暗闇に包まれていた。どうやら意識を失っている間に夜になったらしい。 体の方は良くも悪くも変化はない気がする。姉ちゃんの言った通り、歩かなければこの毒は進行しなかったようだ。 とりあえず助かった。 だがこんな状態の僕を置いていったのか、周りには誰一人いない。 な、何て冷たい奴らなんだ・・・! そんな時、馬車の外から女性陣の会話が聞こえてきた。 馬車から顔を覗かせその方向を見ると、何やら只ならぬ雰囲気を醸し出していた。 「・・・しつこいな~・・・慶太の面倒は私が見るって言ってるでしょ?」 「あなたに何ができるんですか?攻撃呪文しか脳のないあなたが。ここは私が適任だと思いますけど」 「あんたも今は呪文使えないでしょーが!・・・やっぱり・・・将来のお嫁さんである私の愛で・・・///」 「「ふざけんな」」 只ならぬ雰囲気どころではなかった。完全に冷戦状態だ。 ・・・きっとあの恭子ちゃんは悪魔の鏡が化けているんだな。まったく、化けるんならもっと言動に気をつけろよ。 「・・・慶太が可哀そう・・・慶太は私に看病してもらいたいはずなのに・・・それをこんなビッチ共に邪魔されて・・・」 あれ?もしかしてあの陽菜も悪魔の鏡が化けたものなのか? 「・・・確かにお兄ちゃんが可哀そうです・・・早く私の『愛情がたっぷり入った』おかゆを食べたいはずなのに・・・」 恭子ちゃんが愛情を込めて作ったおかゆか・・・これが本物のセリフだったら嬉しかっただろうな・・・ 「愛情がたっぷり入った?あんたまさか・・・今までにそんなことしてないわよね?」 岡田、恭子ちゃんの手作り料理云々でそんなに怖い顔するなよ。別に毒でも盛られたわけじゃないんだから。 「それは大丈夫だよ。慶太が口に入れる物は私が毎回チェックしてるから。『毒』が混入していたものは全部その辺にまき散らしたりね」 「っ!?あれはあなたがやっていたんですか!?」 衝撃の瞬間。恭子ちゃんが・・・僕に毒を・・?い、いや、あいつは偽物なんだ! ともあれ僕はするすると眠っていた布団に戻った。 これ以上心臓に負担をかけたくない。そう思ったからだ。 もう一度、今度はもっと深い眠りに就こうとした時、麗しいお姉さまの声が聞こえてきた。 「まぁまぁ・・・それなら一人ずつ交代で慶太君の看病をするって言うのはどうかしら?」 ・・・・・・・・・・・・・・・は? 麗しい声とは反対に、その内容は僕のわずかな命をさらに縮める魔法だった。 「そうね~・・・例えば一人五分の持ち時間で、その間に慶太君の心を射止めた人が引き続き看病できる、とか?」 は、反対だー!! 「「「賛成!」」」 3対1。よって可決。 判決・・・死刑。 フフ・・・天国にいるらしいお父さんお母さん・・・僕ももうじきそちらへ行きます・・・ 379 :サトリビト・パラレル ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 30 23 ID 47NtYt7u 僕は元来どこの宗派にも属していない。 だがこの時だけは神様に祈っていた。 どこの神様でもかまいませんが、どうか僕にご加護を。 ・・・ザッ・・・ザッ・・・ 神様が助けてほしければ超えてみよ!と言わんばかりによこした最初の試練。 敵はどいつだ!? 「・・・慶太ぁ・・・って寝てるか・・・」 どうやら最初の試練が始まったようだ。 僕 vs 岡田 「・・・スゥ・・・スゥ・・・」 「フフ、熟睡してるな~・・・寝ている顔もかわいいな~///」 成程、そうやって僕をおだてる作戦か。お生憎様、その程度で僕は倒せないよ。 「・・・キスしちゃおっかな~///」 「うわぁー!!」 開始数秒、すでに僕の負けが濃厚になった。 「あれ?起きてたの?・・・・・・・・・・・・・・ちぇ、もうちょっとだったのに」 「な、なんてこと言うのさ!もっと自分を大切にしなさい!」 いくら冗談とは言え、女の子がそんなことを軽々しく口にするものではありません! 「自分を大切に?」 「そう!キスなんて好きな人以外にしたらダメだよ!」 「・・・へぇ~・・・じゃあ好きな人ならいいんだ?」 岡田の目が暗く輝いた。その口も不気味なくらい両端がつり上がっている。 はっきりいって怖い。 「もしかして慶太ってば・・・誘っているの?もう~しょうがないな~」 何がしょうがないのか分からない。いや、何となく予想はつくけど。 次の瞬間、岡田が僕に覆いかぶさりマウンドポジションを取った。両手両足共に動かすことができない。 「や、止めろ・・・!」 「フフフ・・・怯えてる慶太の顔もス・テ・キ♡」 そのまま岡田の顔が迫ってきて・・・口と口が重なった。 「!」 「ん・・・ちゅ・・・くちゅ・・・」 口は今ふさがれているので声を出すことができない。岡田のどこにそんな力があるのか、体の方もピクリとも動かすことができない。 よって僕は抵抗ができない。 「・・・ぷはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ねぇ慶太・・・私・・・なんだか体が熱くなってきたよぉ・・・」 やっと口を離したと思ったら、今度は艶めかしい声で僕を誘惑してきた。 た、耐えるんだ僕!これは罠だ!もし掛かったら陽菜たちにどんな事されるか分かるだろ! 「・・・熱いよぉ・・・ねぇ・・・慶太が望むなら・・・私は・・・いいよぉ?」 岡田の手が僕の体を優しくなでる。 「・・・私は・・・いいよぉ?」 ハイ。もう無理です。ってかよろしくお願いします。 「・・・いいんだな?」 「うん!」 その瞬間、外から太郎君の断末魔の叫びが聞こえてきた。 380 :サトリビト・パラレル ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 31 02 ID 47NtYt7u 第一の試練を友の尊い命と引き換えに突破した僕は、第二の試練に向けて作戦を練っていた。 次は陽菜か恭子ちゃんか・・・ どっちにしろ強敵だ。生半可な気持ちではやられてしまう。 「一体どうすれば・・・!」 その時名案が閃いた。 こっちから相手を翻弄すればいいんじゃね? ・・・ザッ・・・ザッ・・・ 足音が近づいてきた。まもなく僕の人生において最大のミッションが始まる。 「お、お兄ちゃ~ん?///」 2回戦は恭子ちゃんだった。この作戦を恭子ちゃんに使うのはいささか犯罪チックだが、相手は所詮偽物。なら問題はないだろう。 僕 vs マイ・エンジェル(偽物?) 「よく来たね、恭子。さっ、早くこっちにおいで?」 「き、恭子!?え!?う、うん///」 敵もなかなか化けるのがうまいな。まるで本物の恭子ちゃんみたいな反応だ。 だが偽物に僕の攻撃が耐えられるかな? 「もっとそばに・・・」 「あ、はい!・・・なんか今日のお兄ちゃん・・・積極的ですね・・・」 そして恭子ちゃんが手の届くまでの位置に来た時・・・その手を思いっきり引っ張った。 「キャッ!」 そのままベッドに押し倒す。 「お、おおおおおおおおおおおお兄ちゃん!?///」 マウントポジションを取ったまま恭子ちゃんに顔を近付ける。 「恭子は・・・僕の事好き?」 「え!?・・・だ、大好き・・・です・・・///」 敵はこの状況にも動じた様子はない。もしかして悪魔の鏡には嫌悪感というものがないのか? 色々な意味で長引かせるのは大変マズいので勝負に出る。 「なら・・・キスしてもいいか?」 「!・・・あ・・・あぅ・・・お兄ちゃんの・・・好きにして下さい・・・///」 く、くそ!しぶといな! 「本当にいいの?もしかしたらそのまま・・・恭子を食べちゃうかもしれないよ?」 「た、食べっ!?・・・そ、その時は・・・や、優しくして下さいぃ・・・♡///」 分かった降参するよ!もう僕の負けだよ! ところが僕の降参よりも一足先に・・・魔王様とその手下がこの状況を見てしまった。 まだ5分たっていないのに覗くなんて・・・あんまりじゃないですか? 「な、何やってるのよ!妻がいながら他の女と浮気!?それもこんなガキ相手に!?」 「け、慶太さん・・・見そこないました・・・」 二人が軽蔑の目で僕を見てくる。でもそれすらもどうでもいいように思える。 それくらいの迫力を一人の少女が醸し出していた。にっこりと、優雅に頬笑みながら。 「・・・そっか・・・慶太の気持ちはよーーーーーーーーーーーーーーーく分かったわ♪」 さすが陽菜だ!僕の気持ち、すなわちこれは魔物の正体を暴くために嫌々している事を分かってくれたのか! そう・・・思い込みたかった。 381 :サトリビト・パラレル ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 31 35 ID 47NtYt7u 再び一人にされた僕は必死に祈り続けた。 「お、お願いします神様!魔王様の・・・魔王様の試練だけはどうか勘弁して下さい!」 あんな陽菜を見たのは初めてだ。陽菜の心の中は分からないが、きっとあの目は僕を殺る気だ。 怖い・・・怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・ ・・・ザッ・・・ザッ・・・ ヒィィィィィィィイイイイイイ! 自分が毒にかかっていることも忘れて、ここから走り去りたくなった。 布団を頭からかぶり、まるで肉食獣の檻に入れられた動物のごとく震える。 ゆっくりと人の入ってくる気配がした。 ・・・短い人生だったな・・・ 「大丈夫ですか?そんなに布団にもぐりこんで・・・具合が悪くなったんですか?」 しかし僕の予想に反して、入ってきたのは姉ちゃんだった。 僕 ♡ 姉ちゃん 「ど、どうして姉ち―――祥子さんがここに?」 「私も慶太君が心配なんですよ。いけませんか?」 「いや、全然!むしろ超うれしいよ!」 まさか姉ちゃんの口から素直に心配しているなんて聞けるとは・・・天変地異の前触れか? 「フフ、嬉しいです。それで、もし食欲があるのならこれを食べて下さい」 そう言って姉ちゃんは手に持っていた包みを開けた。そこにあったのはおにぎり。 「中に入れる材量がなくて塩むすびになってしまいましたが・・・」 で、でた!姉ちゃん得意の殺人料理!ま、まさか毒をもって毒を制すってやつなのか!? 「・・・今何を考えましたか?」 「え?こんなおいしそうなおにぎりを食べられるなんて、僕は世界一の幸せ者だなって」 「慶太君ったら大げさですね」 こんなかわいい姉ちゃんを見せてもらったんだ。腎臓の一つや二つ・・・惜しくない! 僕は意を決しておにぎりにかぶりついた。 「!・・・めっちゃうまい!」 な、なんだこれは!?本当に姉ちゃんの手作りなのか!?まるでうま味しか感じないぞ!? 「そんなに喜んでもらえると、こっちまで嬉しくなりますよ」 僕は感動した。こっちの世界の姉ちゃんはなんて理想的な姉ちゃんなんだ。 「・・・あの・・・お願い・・・してもいいかな?」 「何ですか?」 「祥子さんの事・・・二人っきりの時だけ、姉ちゃんって呼んでもいいですか?」 「っ!?」 夢だったんだ・・・こんな素敵な姉ちゃんを持つことが・・・ 「・・・それでは私も慶太君の事、弟として扱いますね?」 「そ、それって・・・うわ~い、やった~!」 自分でも分かっている。今のセリフがとてつもなくキモイ事が。 でもたまにはいいじゃないか。17年間、耐えてきたんだからたまにはいいじゃないか。 「あ、そろそろ時間ですね。それでは慶太く―――それじゃあね、慶太」 「え~!・・・もういっちゃうの?」 「またあとで来るから、我慢できるよね?」 「うん!約束だよ!」 今の様子を動画で全世界の人に配信されたら死ねる自信がある。 382 :サトリビト・パラレル ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 32 18 ID 47NtYt7u 「フンフンフ~ン♪」 ずっと夢に見てて、でも無理だとあきらめていた事がついに現実になったのだ。嬉しくてたまらない。 「何してもらおっかな~・・・膝枕とか・・・してくれるかな///」 きっと気持ちいいんだろうな~。それで頭とかを優しくなでながら、「眠くなったらねてもいいわよ」とか言ってくれるんだろうな~。 先ほどの余韻や妄想に浸っていたときに例の音が聞こえてきた。 ・・・ザッ・・・ザッ・・・ あ!姉ちゃんが来てくれたんだ! そう思った僕はベッドに戻り寝たふりをする。 その人物の足音がゆっくりと近づいてくる。あと少し・・・もう少し・・・今だ! 「おそいよ~!すぐに来てくれると思ったのに!」 姉ちゃんの腰にしがみつきながら拗ねた。 ちょっと脂肪が多いが、それが柔らかくて心地よい。ん?筋トレが趣味の姉ちゃんに脂肪なんてあったっけ? 「最近筋トレさぼってるの?お腹ぷにぷにするよ?」 「・・・アハ・・・アハハハハハハ・・・慶太ったら・・・冗談がうまいな~」 比喩表現だが、僕に雷が落ちた。 「私がデブだって言いたいの?」 あ・・・あぁ・・・ 「抱きついてきたときはやっと素直になったと思ったのに・・・お仕置きが必要だね」 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」 僕 vs 大魔王(陽菜) 「だ、誰か―――むぐぅ!?」 「だまりなさい慶太」 僕の腕を潰した左手で今度は口を押さえられた。抵抗が何を意味するのか・・・分からない僕ではない。 「慶太は黙ってうなずくか首を横に振るかをすればいいから・・・分かったわね?」 コクッ、コクッ! 「じゃあ第一問。慶太は私の所有物?」 いきなりでそれかよ!?僕はそんなものになった覚えはないよ! 「・・・どうなの?」 ・・・コクッ・・・ 「んふぅ♪いい答えね。次は・・・慶太がこの世で愛してるのは私だけよね?」 ・・・ブンッ、ブンッ! もちろん陽菜の事は大好きだが、姉ちゃんも恭子ちゃんも岡田も好きだ。太郎君は別として。 だが僕の答えは陽菜様のお気に召さなかったらしい。 「ふごっ!?」 「そんな答え・・・私は望んでないんだけどな~」 僕の口を掴む手に力が込められる。ア、アゴが! コクッコクッコクッ!! 「そう、それが正解よ。慶太は私だけを愛していればそれでいいの。絶対に間違えたり、勘違いしたら・・・ダメだからね?」 コクッ、コクッ、コクッ!! 「それじゃあ時間だから私は行くね?今はさびしいかもしれないけど、後でずっと一緒にいてあげるから我慢しててね」 姉ちゃんと似たようなセリフを言い残した後、陽菜は馬車を出て行った。 だがさっきとは僕の気持ちが180度違っていた。 とりあえず一つだけ分かった事は、この世に神なんていないということだった。 383 :サトリビト・パラレル ◆sGQmFtcYh2 :2010/06/18(金) 00 34 28 ID 47NtYt7u 「それで・・・慶太はこの後誰に看病してもらいたいの?」 自信たっぷりの表情で陽菜が問いかけてきた。 先ほどのやり取りからして、陽菜以外を選ぶと大変なことになるだろう。 「はぁ~・・・このあと慶太と結ばれるて、そして・・・キャ~!!」 「どうしよう・・・今からでも川で水浴びしてきたほうがいいのかな?」 だがこんなにも幸せそうにしている二人を裏切ることができるのか? 「フフ、慶太君は人気者ですね」 本命がいるのに・・・姉ちゃんにずっと看病してもらいたいのに・・・ 「・・・早くしなさいよ」 陽菜が昔アニメで見た金髪の青年並みにプレッシャーを与えてくる。 それに耐えかねて陽菜を指名しようとしたその時、 「なぁなぁ、なんかそこで毒消し草を見つけたんだけど」 太郎君がやっちまった。いや、僕にとっては最高に空気を読んでくれたんだけど。 「これが欲しいのかい、早川君?でもこれをただであげるわけにはいかないな~・・・交換条件だ」 太郎君はいまだに空気を読めていない。 「これと引き換えにお前のハーレムを一人こっちによこせ。できれば結衣で」 最悪だ。このバカは最悪にこの状況が理解できていない。 僕の懸念通り、まず最初に岡田の怒りが爆発した。 「・・・太郎君、だっけ?・・・ちょっとこっちに来てくれるかな?」 「え!い、いきなり皆の目の前で!?し、しょうがないな~」 「結衣さん・・・私の分も取っておいてくださいね?」 続いて恭子ちゃんも。 「みんなズルイよ!太郎君は私が最初にお相手するの!」 「おいおいマジかよ~!みんな順番な?じ・ゅ・ん・ば・ん♪」 太郎君のこの鈍感さはある意味幸せかもしれない。僕もこの才能がほしかったな。 ・・・でも長生きはできなくなるけど。 「すごいな太郎君は!僕なんか目じゃないね!・・・だから毒消し草ちょうだい?」 「ほらよ!好きなだけ食えばいいだろ!俺はこれから美女のお相手をするんだから邪魔だけはすんなよな!」 そのまま岡田、恭子ちゃん、陽菜の三人を侍らせた太郎君が馬車の中に消えていった。 僕はそれを見届けながら毒消し草を食べる。うぇ、にっが。 「・・・大丈夫かしら・・・彼・・・」 「根拠は全くないけど、きっと大丈夫だよ!」 馬車はしばらくしてからギシギシと大きく揺れ始めた。 「え!?何事!?」 「しー!あの中ではきっといろいろと盛り上がってるんだから、僕たちが邪魔するのは無粋だよ!」 その揺れは数秒で収まった。どうやら太郎君はすぐに限界を迎えたらしい。 馬車から例の美女たちが出てきた。その顔はどこか爽やかさに満ちていて、とてもすっきりとしていた。 「それにしても結衣ちゃんが初体験だったとは意外だったな~」 「ん~何度か太郎君相手に考えたんだけど、やっぱりいざとなると足がすくんでね。というか恭子ちゃんの慣れた手つきの方が意外だった わよ」 「や、やめてくださいよ!恥ずかしいじゃないですか///」 三人の会話に姉ちゃんの顔が真っ赤になった。 ちなみに僕の顔は真っ青になった。 そして太郎君は馬車から出てこなかった。
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1535.html
第三話『魔剣デルフリンガー』 シンが貴族三人を打ち負かした翌日の昼下がり、研究小屋の傍らではシンとコルベールが インパルスの手入れを行っていた。 召喚されてしばらくしてから、コルベールの伝手で呼ばれてきた土のメイジ、 学院長秘書のミス・ロングビルがインパルスに魔法処理をしてくれることになったので、 シンは本体に掛けた固定化だけでなく背部のフォースシルエットにも、強度を増す魔法、 硬化を念入りに掛けてくれるようにお願いした。 VPS装甲ではないシルエットは、兵器として十分な強度は持っているとはいえ 流石に不安は否めない。 ゴーレムを始め製造に携わる土メイジらしいのか、ミス・ロングビルはMSという 既存のゴーレムと明らかに異なる存在に興味を示していたようだが、作業の最中 コルベールが妙に嬉しそうだったのは、眼鏡の似合う理知的な彼女が、スタイルも抜群な 美人であったことと決して無関係ではないだろう。 ミス・ロングビルの掛けてくれた物質の化学変化を防ぐ魔法、固定化のおかげで、 もはや機体の劣化は気にしないで済むようになったが、雨水を防ぐために防水布をかぶせ、 磨いてやるくらいはしないと寝覚めが悪い。 彼自身それほど機体にそこまで愛着を持つような性分ではなかったし、 補充の当てが無いだろう機体のバッテリーも、いつかは切れて役立たずの鉄屑に 成り果ててしまうだろうが、やはり異郷の地に取り残されるともなれば、 数少ない故郷とのつながりが恋しくなるものだ。 たとえそれが、物を壊し人を殺すために造られた兵器だったとしても。 「……のうミス・ロングビルや、食事はまだかのう?」 「さっき済ませたばかりでしょう、呆けたフリをしてる暇があったら仕事してください」 仕事をサボろうとするオスマンをあしらいつつ、黙々と書き物を続けていた ミス・ロングビルが、スカートの中の暗がりを覗かんと床を駆け回るハツカネズミを蹴飛ばし、 隙あらば彼女の形のいい尻へ伸ばされるオスマンのしわくちゃな手を視線も向けずに捻り上げる。 「ちょ、ミス・ロングビル痛い痛い」 そんな風に、本塔の最上階にある学院長室では、オールド・オスマンがなんとかして ミス・ロングビルの隙を突き、齢三百歳とも噂される彼が若さの秘訣と嘯くセクハラに励んでいた。 「まったく、年寄りを苛めるものではないぞい……そんなだから婚期を逃すんじゃ」 給料は良いのは助かるが、毎日のように下着を覗かれたり尻を撫でられては堪らない。 深々とため息をついた彼女は、人が気にしていることをグサリとやってくれた このクソジジイを黙らせるべく、そのこめかみへすらりと伸びた脚から繰り出した 惚れ惚れするようなハイキックを叩き込み、彼を絨毯へ沈める。 「次にやったら王宮へ報告します」 白目を剥いて痙攣するオスマンへそう吐き捨てて仕事に戻る彼女の後姿に、 彼の使い魔であるハツカネズミ、モートソグニルは恐れをなしたように頭を抱えちゅうちゅうと鳴いた。 三人もの貴族と決闘し、それを真っ向から打ち負かしたシンはいまや学院で暮らす平民たちの英雄で、 コック長のマルトーからは「我らの剣」と称えられ、まるで王侯貴族のような扱いを受けている。 日もすっかり傾いてきたころ、ステラと二人で賄いをご馳走になっていると、 こちらに視線を向けるサラマンダーと出くわす。他所の使い魔が一体何の用だろうと 首をかしげていると、それに気づいたステラが声を上げた。 「あ、フレイム」 「知ってるのかい?」 「うん、ツェルプストーって人の使い魔だってシエスタが言ってた」 シンはそれを聞いてそ知らぬ顔で食事を済ませ、何が目的なのか問い質してやろうと、 逃げるように去って行く彼の後をつけることにした。 彼はフレイムが生徒たちの暮らす学生寮へ入ってゆくのを見届けたところで、 その日の授業を終えたルイズと鉢合わせし、訝しげな視線を向けられる。 「こんなところでこそこそとなにやってるのよ?」 「ああ、ルイズさんか。なんだかツェルプストーって人の使い魔が覗いてたんで、 何の用だろうと追いかけてたんですよ」 「あー、やっぱりそうなったのね」 その答えに状況を察した彼女は、領地どころか寮の部屋まで隣同士な赤毛の少女、 キュルケ・フォン・ツェルプストーの奔放な人となりを懇切丁寧に語って聞かせ、 シンの顔色を心底微妙なものにした。 曰く、入学早々彼女の有無を問わずにめぼしい男子複数へ色目を使い、女子の顰蹙を買った。 曰く、彼女の部屋は夜になると一夜を共にしようとする男子たちが列を成して押しかけてくる。 エトセトラ、エトセトラ。 「おおかた、あんたが活躍したもんだからコナ掛けてきたんじゃない? やたら惚れっぽいのさえ何とかすれば、悪い奴じゃないんだけどね…… よけいなトラブル背負い込みたくないんなら放っときなさい。 きっと事の最中にあの子の彼氏たちと鉢合わせして修羅場になるから」 「……アンタ、お嬢様なのに言うことは言うんだな」 「私の彼、庶民だから。その影響かしらね」 長年にわたりヴァリエールと恋人を奪いあい、トリステイン・ゲルマニアの国境を挟んで 隣り合っているがゆえに戦争ともなれば絶えず杖を交え殺しあってきた両家だったが、 ルイズは不思議とキュルケ個人のことが嫌いではなかった。 一生をハルケギニアで過ごしていれば違ったのかもしれないが、才人と出会い 地球の暮らしを知ってしまった彼女は、もはやそれほど貴族へのこだわりを持っていない。 それゆえに先祖代々の仇敵などと言われてもいまいちピンとこないのだ。 ────まあ万が一才人の存在が知られて、彼に手を出されたりしたら、そのおっぱいもぐけどね。 だが越えてはならない一線というものは何にでも存在する。 数多の男子を釘付けにするキュルケの見事なプロポーションに対し、 多少は膨らんできたとはいえルイズのちっぱいでは到底太刀打ちできないのだった。 シンたちが召喚されてちょうど八日。ハルケギニアの時間で一週間が過ぎ、 学生たち待望の週末が、休日である虚無の曜日がやってきた。 「シン、ステラ、買い物に行くわよ!」 ステラの身体が日常生活を問題なく送れる程度には回復してきた頃、 箪笥の引き出しから現れたルイズから唐突にそんなことを言われたシンたちは、 朝食が終わるが早いか厩舎へと連れて行かれ、馬で三時間ほどの距離にある トリステインの王都、トリスタニアはブルドンネ街へやってきた。 ここで視点を一旦魔法学院へ戻そう。ルイズたちの外出を知り、キュルケは慌てて 親友の元へ転がり込む。 「タバサー、居るかしら?」 ノックの後に青いショートヘアと赤い眼鏡が特徴的な、小柄な少女が顔を出した。 タバサと呼ばれた彼女はその体に不釣合いなほど大きな曲がりくねった杖を携え、 人形のように整いながらも無表情な顔へ親しいものにしか判らないような不機嫌さを浮かべている。 「……虚無の曜日」 休日は始終読書して過ごすと決めていた彼女の抗議もなんのその。 キュルケはマシンガンのような早口で自らが恋したシンの外出をまくしたて、 竜の中でも随一の速度を誇る風竜を使い魔とするタバサへ助けを求めた。 かくしてキュルケたちを乗せた風竜シルフィードは、ルイズたちを追うために トリスタニアへ向けて学院を出発したのである。 「ねえルイズ、これなあに? あれは?」 「迷子になるから離れないで!」 シンの見慣れた地球の街と比べると大分狭く感じられるブルドンネ街の大通りを、 一行は物珍しい品を並べる露天やらに好奇心を刺激されて、しばしば横道にそれてゆく ステラを軌道修正しつつ歩いてゆく。 どうやらこの国の識字率は低いようで、酒場は瓶の形、衛士の詰め所は×印など、 店の看板は大抵が絵で表されている。 ルイズに連れられた二人は、大通りよりも狭い路地裏へ入るとその惨状に顔をしかめた。 「こりゃひどいな」 「うぇい……汚い」 「仕方ないでしょう、もうすぐだから我慢してちょうだい」 悪臭が鼻を突き、ゴミや汚物が転がる有様に辟易しつつも、彼らは目的地だった 剣を模った銅の看板を掲げる店、武器屋へたどり着いた。 羽根扉を開けて入ってきた客を見て、武器屋の主人は目を丸くした。 なにせ従者らしき二人を引き連れた真ん中の少女は、マントに加えて貴族の証である 五芒星の紐タイを着けているのだ。 平民に身をやつした土メイジならともかく、目の前に居るような身なりの貴族に 剣の目利きが出来るものなどほとんど居ない。これは鴨が葱背負ってやってきたぞと 相好を崩した店主は、この貴族も最近出没する盗賊の用心に武器を買いにきたに違いないと、 もみ手をしてご機嫌取りにいそしんだ。 「これはこれは貴族の若奥様、このたびはいったいどういったご用件で?」 「従者に持たせる剣を買いに来たの。シン、どういうのが欲しい?」 「そうですね……多少切れ味が悪くてもいいから、なるたけ頑丈なやつですかね?」 ────ビンゴ! 読みの当たった店主はいそいそと棚から無骨な幅広の剣を下ろすと、 なんのかんのと能書きをたれながらシンへ勧める。 「普段いらっしゃる貴族様方にはこちらのレイピアが人気なんですが、 頑丈な剣ということならこれをおいて他にありませんぜ」 『やいこら! 俺様は女子供のおもちゃじゃねえぞ!』 長さのバランスもちょうど良く、これに決めてしまおうかといった矢先、 背後から聞きなれぬ低い男の声が響いた。 「なんだ?」 声のしたほうへ目を向けるが、そこにはしゃがみこんで剣を弄り回しているステラが居るばかり。 だがルイズは、彼女の手に握られているぼろぼろの錆剣が、鍔元の金具をカチャカチャと 鳴らしているのに気づいた。 「あら、それってインテリジェンスソード?」 「あの剣が喋ってるのか?」 インテリジェンスソードとは、その名の通り自らの意思を持つ剣のことである。 同じく自立稼働し、擬似的にとはいえ意思を持つ魔法人形やガーゴイル技術の応用だとも 言われているが、その歴史は古く、一体いつの時代のメイジに生み出されたのかすら知るものは居ない。 『……今更だが見くびってたメイドの嬢ちゃんよ、おめえさん意外といい体してんのな』 「エロ剣だ」 「エロ剣ね」 「エロ剣?」 『ちっげーよ! そういう意味じゃねーって!!』 エクステンデッドとして鍛え上げられたステラの身体を評して言ったであろうその言葉を、 メリハリの効いたバディへの評価と解釈したシンとルイズは軽く引く。 そんな錆剣にとって致命的な誤解をされるなか、手も足も顔も無いはずの彼が 必死になって弁明しようとする様子が、なんとも不思議な可笑しさを醸し出していた。 「こらデル公!また商売の邪魔しやがって!!」 『うるせー! 何が商売だ、嘘八百並べ立ててそんなヘボ剣売りつけようとしてやがった癖に!!』 「────嘘八百、ですって?」 聞き捨てなら無いその言葉に、ルイズの鳶色の瞳が鋭さを増す。 「ヒィっ! お許しくだせえ若奥様。ただちょっとばかり大げさに吹聴しただけなんでさ……」 『嬢ちゃん、俺をその剣に重ねてみな』 ひたすら平謝りに徹する親父をよそに、錆剣は自分をカウンターに載せられた剣へ 重ねることを指示する。 ステラが言われたとおりにすると、錆剣は案の定といった声色で金具をカチャカチャ鳴らし、 シンが買おうと思った剣の正体をぶちまけた。 『そこでソイツを一発ガツンとやってみな』 「うぇい!」 振り下ろされるが早いか、錆剣の一撃でたちまち砕ける鋼の刃。 親父が頑丈な剣といったらこれをおいて他に無いなどと言った舌の根も乾かぬうちにコレだ。 さらに眼前の惨状へ追い討ちを掛けるように、断面の異状に気づいたルイズが 目を剥いて非難の声を上げる。 「なによこれ!? 頑丈だなんて言っておいて、錆び付いた剣を 錬金でごまかしただけじゃない!!」 勉学の成績も優秀な上に姉二人が優秀な土メイジのせいか、ルイズも少しばかりは 土の魔法に造詣が深い。この剣ときたら表面だけは奇麗に繕ってあったようだが、 砕けた刃の断面は茶色い錆びに侵食され、内側は当の昔にボロボロとなっていたのだ。 その指摘に親父はたちまち顔面蒼白。先ほど以上の必死さでカウンターへ頭をこすり付け、 ただひたすらに命乞いした。 図らずも原因となってしまったステラは菫色の瞳をぱちくりさせて、手元の錆剣と 砕けた剣とを見比べると慌てて店主に頭を下げ、精一杯謝罪の言葉を述べる。 「お許しくだせえお許しくだせえ……その剣は何日か前に旅の傭兵から引き取ったもんでして、 いくらなんでもそこまでひどい代物だとは思ってもみなかったんでさあ! 若奥様どうか、どうか命ばかりはご勘弁を…………!!」 「あの、おじさん……壊してごめんなさい!」 「ステラのせいじゃないよ……なあルイズさん、本当に知らなかったみたいだし許してやろうぜ」 余りにも哀れを誘うその姿に、流石にシンから助け舟が入る。 「そうね……ほら、もういいから顔を上げなさい」 「…………へ? 許していただけるんで?」 「あら、罰が欲しかったのかしら?」 「いいえ滅相もございません!」 「店長さんには悪いけど、お前のおかげで粗悪品に引っかからずに済んだな。 デル公とか言ったっけ? ありがとうな」 『ちがわい! デルフリンガー様ってんだ! 覚えておきやがれ!!』 威勢よく名乗りを上げた錆剣ことデルフリンガーは、ステラからシンの手に移るや 途端にその口を閉ざし、しばらくして驚嘆の意を示した。 『……おでれーた、お前“使い手”か。俺を買え』 「シン、それにするの? さっきの程じゃないけど錆だらけじゃない」 「う~ん……」 「でも、デルフはしゃべるし面白いよ?」 財布を握るルイズが難色を示す様子に危機感を抱いたデルフリンガーが、 インテリジェンスソードならではの千の言葉を駆使して必死にその有用性をアピールし、 なんとしても使い手の元へ馳せ参じようと涙ぐましい努力を重ねる様子に流石の彼女も折れ、 しぶしぶ店主へ値段を問うた。 「へい、本来でしたら新金貨で百、と言いたいところですが、先程のこともありやすし ただで差し上げやす」 「あら、悪いわね」 「騒がしいときはホレ、この通り鞘に押し込めば黙りますんで……」 こうしてデルフリンガーとめぐり合ったシンは、その背に150cmはある彼を背負い、 ステラたちと大通りへ繰り出してゆく。 「いやー、助かったわ」 「どうかしたんですか?」 安堵の声を上げたルイズに首をかしげるシンは、その理由を聞いて目を丸くする。 「……実はね、ステラの薬代のせいで今の私のお小遣い、百エキューギリギリしか無かったの」 「……すいません」 「謝らなくて良いわよ! けどね、剣を買うのはギリギリでも、百エキューって 食事には十分過ぎてお釣りが来るくらいの額よ。 もうお昼だし、みんなで美味しいものでも食べに行きましょう」 「うぇい! ご飯―!!」 美味しいものと聞き、そろそろ空腹を覚えはじめていたステラがたちまちはしゃぎだす。 シンはいまだ飲み込めていないことだったが、ハルケギニアにおける平均的な 平民一人の生活費が一年でおよそ120エキューである。これを考えれば現在のルイズの懐具合の 程が知れるというものであろう。 一方、学院からはるばる彼らを追いかけてきた凸凹コンビ、キュルケとタバサも 武器屋にたどり着き、物陰からルイズたちの様子を伺っていた。 「まあ、ルイズったらプレゼントなんて生意気な!」 既に役目は終えたとばかりに、興味を無くして読書にいそしむタバサを他所に、 一人ヒートアップする彼女は勇んで羽根扉をくぐる。 だがストロングでゴージャスな名剣をシンへプレゼントしてハートをゲットしようという キュルケの目論見は、次の瞬間あっさりと瓦解してしまう。 「また貴族だ! 珍しいこともあるもんだなあ」 そう呟いた店主は申し訳なさそうに、今日はもう店じまいするつもりなのだとキュルケに告げた。 「どうしてよ!?」 「いえね若奥様、先ほどいらした貴族のお客様に危うく粗悪品の剣を売りつけちまうところでして。 幸い寛大なお方で助かったのですが、これは同じことがあったら命がいくつあっても 足らないと思い、至急売り物を調べ直さにゃならんという次第で……」 「キィ~~~~~~!! よりによってルイズに出し抜かれるなんて!!」 半ば追い出されるように店を出る二人。吹き抜ける一陣の風が、 西部劇のタンブルウィードのように紙屑を運び去ってゆく。 裏通りにタバサが無言でページをめくる音だけが響く中、完全に出鼻をくじかれる形となった キュルケは、地団駄踏んで悔しがった。 □□□□ 「あー、おいしかった」 「ごちそうさま!」 昼食を終えた三人は、訪れたオープンテラスの喫茶店でルイズの大好物のクックベリーパイを つつきながら、食後の紅茶を楽しんでいた。 今日は風も無く、外で食べるには絶好の日和だ。 「デザートだけ別の店で食べるなんてどうかと思いましたけど、この味なら納得ですね」 「でしょう? 私のお気に入りなのよこのお店。少なくともパイに関してならトリスタニアでも一番ね!」 不意に日差しが遮られ、なんだろうとシンが顔を上げると、上空を一匹のドラゴンが 横切ってゆくのが見える。その背には人影があり、首元には金属板が光っていた。 「ああ、あれは竜便──竜を使った運送業者よ。学院にも食材の搬入でちょくちょく来るわ」 疑問の表情を感じ取ったのか、ルイズが説明してくれる。なるほど、流石はファンタジー。 自動車の変わりにああいう生物を利用した職業が当たり前に日常へ溶け込んでいるのか。 「でも竜便って珍しいのよ? 竜は気位が高いから認めた主じゃないと言うこと聞かないし、 結構餌代だって掛かるから平民じゃあまず出来ない仕事ね」 しかし聞いてみると、基本的にはペリカンなどの鳥類を利用した小規模な宅配サービスが主流で、 竜を使うのは金に困った竜騎士が、小遣い稼ぎにやるアルバイトどまりなのだそうだ。 「でも不思議なのよね」 「なにがです?」 「学院に来る竜便って、どういうわけか御者が平民の女の子なのよ。 落ちぶれた貴族って風でもないし、どうして竜に乗れるのかしら?」 カップの中身をスプーンでぐるぐるかき混ぜながら、ルイズは首をかしげる。 「きっとシルフィードみたいにやさしい竜なんだよ」 無口で小さな同級生が召喚した風竜の子供。人懐っこいことでメイドたちからの評判も良く、 ステラのいい遊び相手となっている青い竜を思い出した二人は、その微笑ましい発想に なるほどと納得した。 「剣は買えないしダーリンは見つからないし……虚無の曜日だっていうのに まったくやんなっちゃうわ!」 すっかり日も傾いたころ。学院への岐路に着くシルフィードの背で、収穫の無かった キュルケはぷんすかむくれていた。 「────右」 だがせっかくの休日を台無しにされ、挙句愚痴を聞かされるタバサはいい迷惑である。 じきに学院が見えてこようかという辺りで、前方から急接近してくる騎影を確認したタバサは、 巧みにシルフィードへ指示を下しそれを回避する。 「きゃあっ! なんなのよ、どこ見て飛んでるのあの竜!!」 彼女らとギリギリですれ違ったのは、全長六メートル程のシルフィードとは大きさに 倍近い差があるなかなかに年月を経た風竜だ。 下手を打てば衝突するやも知れない危険な飛行にキュルケは文句をたれるが、 返事をすることも無く通り過ぎた相手は、振り向いた頃にはとっくに空のシミほどにも 小さくなっていた。 「……御者のほかに学院長秘書のミス・ロングビルが乗っていた」 「なんですって? ……ミス・ロングビルも隅に置けないわね。 竜騎士の殿方とデートでもなさるのかしら?」 「………………」 タバサの持つ風メイジ特有の動体視力は、ミス・ロングビルと相乗りしていた人物が 自分たちとさほど年の違わない少女であることも見抜いていたが、 勝手な勘違いをしている友人に別段わざわざ指摘するまでも無かったので黙ることにした。 「ちょっと、もう少し気をつけて飛びな! 危なくぶつかるところだったじゃないか!!」 「ゴメンゴメン、けどマチルダお姉ちゃんのせいで遅くなっちゃったんだもん仕方ないじゃない」 いつもの理知的な彼女からは想像もできないような蓮っ葉な口調で、御者の少女を とがめるミス・ロングビルは、自分に仕事を押し付けて逃亡した雇い主を深く恨んだ。 爺のアレさえなければ今頃はとっくに家族の下へたどり着けたというのに……! 「さあ、飛ばすよファフナー! いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉ~~~~!!」 「ヒィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、加速に伴って前方から吹きつける暴力的なまでの 向かい風を楽しむように、光の加減しだいで黒髪にも見える濃い茶色の長髪をなびかせる少女は 自らの相棒へ声を掛け、しがみつく姉貴分に情けない悲鳴を上げさせる。 「マユゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! 帰ったら承知しないよっ! 覚えといで!!」 風竜のスピードに酔いしれる少女の高揚に呼応するかのように、その右手から放たれる光が 遠目には夕暮れの空に輝く一番星のように瞬いた。